アマチュア無線局 JF9OYU/ライセンスフリー無線局 いしかわJK946 です。いつもブログをお読みいただきまして、心より感謝申し上げます。
さて、今回は、2018年1月10日に石川県内で発生した、石川テレビ放送と北陸放送(MRO)のテレビ放送停波事故について取り上げます。この事故は、金沢市観音堂町にある石川テレビ本社敷地内の共用送信施設に落雷があり、鉄塔内で火災が発生したことで、石川テレビと北陸放送の地上デジタルテレビ放送が広い範囲で視聴できなくなったものです。影響は石川県加賀地方を中心に約38万世帯に及び、放送インフラが自然災害に対してどれほど厳しい環境に置かれているのかを示す出来事となりました。
石川テレビと北陸放送の共用送信施設とは
石川テレビと北陸放送の親局送信施設は、金沢市観音堂町の石川テレビ本社敷地内にあります。所在地は石川テレビの本社所在地でもある金沢市観音堂町チ18番地で、金沢市西部の海側、犀川河口にも比較的近いエリアです。この一帯には石川県内のテレビ放送を支える基幹送信所が集まっており、NHK・テレビ金沢・北陸朝日放送の送信施設と、石川テレビ・北陸放送の送信施設が近接して設置されています。
石川テレビ側の送信鉄塔は高さ約160mの自立式円筒型鉄塔で、地上から140m付近までが円筒鋼管柱、140mから160m付近にゲイン塔が設けられ、上部に地上デジタルテレビ用の送信アンテナが設置されています。社史資料では、150mから160m付近に6L3段4面のループアンテナが設けられていたこと、130m付近と70m付近にFPU基地局が設置されていたことも確認できます。FPUとは、テレビ局が中継現場などから映像や音声を送るために使う無線伝送設備のことで、放送局にとってはニュース取材や中継を支える重要な設備です。
石川テレビの物理チャンネルは16ch、北陸放送は14chで、いずれもこの観音堂の送信施設から加賀地方を中心に地上デジタルテレビ放送を送信していました。つまり、この共用送信施設は単なる鉄塔ではなく、石川県のテレビ放送を支える大動脈の一つだったわけです。
2018年1月10日、最初に起きた異変
事故が発生した2018年1月10日、金沢周辺は冬型の気圧配置の影響を受け、雷を伴う雪やみぞれが降る荒れた天候でした。日本海側の冬は、夏の夕立とは異なり、昼夜を問わず雷が発生しやすい特徴があります。この日も、まさに北陸らしい冬の雷が発生していました。
石川テレビ社史によると、同日12時11分ごろ、石川テレビ本社敷地内にある送信鉄塔付近で落雷が確認されました。落雷直後、かなりの衝撃があったものの、この時点ではすぐに大規模な停波には至っていませんでした。ただし、送信機や発電機に関する問い合わせ、発電機使用に関する確認などが行われており、設備側ではすでに何らかの異常が疑われていたことが分かります。
その後、18時39分ごろ、石川テレビの送信機が停止状態となります。復旧を試みたものの、送信機側ではVSWR値の異常が表示されました。VSWRとは、送信機からアンテナへ送った電波エネルギーが、どれだけ正常にアンテナ側へ流れているかを示す指標です。アンテナや給電線に異常があると、電波の一部が送信機側へ戻ってきます。戻りが大きくなると送信機を壊す危険があるため、保護回路が作動して送信を停止します。つまり、この時点で送信機そのものよりも、送信機からアンテナまでの経路、すなわち給電線やアンテナ系統に重大な異常が起きていた可能性が高まっていました。
19時20分、完全停波へ
社史のタイムラインでは、19時20分ごろに完全停波、19時25分ごろに鉄塔内火災を確認、19時35分ごろ消防へ通報、19時45分ごろ消防による消火活動開始、20時00分ごろ現用系送信機を停止、という流れが記録されています。一般報道でも、鉄塔内で火災が発生し、アンテナへ放送波を送る同軸ケーブルが損傷したことが停波の原因とされています。
ここで重要なのは、火災が単に鉄塔の外側で起きたのではなく、鉄塔内部を通る送信用ケーブルなどに影響を与えたことです。テレビ放送では、送信機で作った高周波電力を太い同軸ケーブルで鉄塔上部のアンテナまで送り、そこから電波として空中へ放射します。送信機が無事でも、途中のケーブルが焼損すれば電波をアンテナへ送ることができません。今回の事故では、まさにこの「送信機からアンテナまでの道」が断たれたことにより、放送が止まったと考えられます。
報道や技術系サイトでは、鉄塔の高さ130mから140m付近、あるいは鉄塔内部の上部でケーブルや設備が焦げていたとされています。社史に掲載された写真からも、FPU避雷器盤やケーブル類が激しく焼損した様子が分かります。ただし、写真や図版そのものは石川テレビ社史の著作物であるため、ブログ記事ではそのまま転載せず、事実関係を文章で説明するにとどめるのが安全です。
北陸放送にも影響が及んだ理由
この事故で石川テレビだけでなく北陸放送も停波したのは、両局が共用送信施設を使用していたためです。石川テレビ本社敷地内の鉄塔は、石川テレビと北陸放送の地上デジタルテレビ放送を送信する共用施設として使われていました。そのため、鉄塔内の送信用ケーブルやアンテナ系統に火災・焼損が発生すると、両局の放送に同時に影響が及びます。
北陸放送はTBS系列、石川テレビはフジテレビ系列であり、番組内容や放送ネットワークは別々ですが、電波を出す最終段階のインフラを共用していたため、一つの送信施設の事故が複数局の停波につながりました。これは放送インフラの効率化という点では合理的ですが、災害時には共通部分が弱点となることもあります。もちろん、放送設備では冗長化や保護装置が設けられていますが、冬季雷による鉄塔直撃、さらに鉄塔内部の火災という条件が重なったことで、通常の想定を超える被害になったと考えられます。
応急復旧の動き
事故後、現場ではすぐに復旧作業が進められました。しかし、鉄塔内で火災が発生している状況では、単純に送信機を再起動することはできません。送信機を強制的に動かしても、アンテナ側へ正常に電力が流れなければ、送信機をさらに損傷させる恐れがあります。
社史のタイムラインによると、21時26分ごろにはアンテナメーカーや電気興業への対応手配、北陸総合通信局へのUHF連絡無線用ホイップアンテナ使用許可申請が行われ、22時00分ごろには緊急用可搬型平面アンテナの借用手配、22時10分ごろにはケーブルによる緊急バックアップ装置の準備開始、22時30分ごろには北陸総合通信局からUHF連絡無線用ホイップアンテナ使用許可、23時10分ごろにはUHF連絡無線用ホイップアンテナ50Wでの送信開始、23時40分ごろにはケーブルテレビでの放送開始という流れが確認できます。
通常、地上デジタルテレビの親局は大きな送信アンテナと一定の送信電力で広い範囲をカバーします。しかし、鉄塔上部のアンテナや給電系が使えなくなった場合、応急的に別のアンテナやケーブルテレビ網を使って、少しでも多くの視聴者へ放送を届ける必要があります。今回の事故では、仮設アンテナによる応急送信と、ケーブルテレビへの映像・音声送出が併用されました。ケーブルテレビ経由では約12万世帯が救済されたとされ、完全ではないものの、視聴不能世帯を大きく減らす効果がありました。
影響は約38万世帯に
この停波により、石川県加賀地方を中心に約38万世帯で石川テレビと北陸放送が視聴できない、または視聴しづらい状態となりました。金沢親局の電波を直接受信している世帯だけでなく、中継局へ電波を送る系統にも影響が出たため、山中、津幡、大聖寺、小松粟津、尾口、白峰など、複数の中継局エリアにも影響が及びました。
テレビ放送は、親局から直接家庭へ届く電波だけで成り立っているわけではありません。山間部や遠隔地では、親局の電波を受けた中継局がさらに地域へ向けて電波を出します。そのため、親局や基幹部分で障害が発生すると、そこから先の中継局にも影響が連鎖します。今回の事故は、親局送信所が地域の放送ネットワーク全体にとっていかに重要な存在であるかを示しました。
なぜ冬の金沢では雷が危険なのか
北陸の冬の雷は、夏の雷とは性質が異なります。夏の雷は、日中に地表が温められ、上昇気流によって背の高い積乱雲が発達することで発生します。一方、冬の日本海側では、大陸から流れ込む強い寒気が、比較的暖かい日本海の海面から熱と水蒸気の供給を受けることで雷雲が発達します。その雷雲が季節風に乗って沿岸部へ流れ込み、金沢を含む北陸の平野部に雷をもたらします。
冬季雷の特徴は、発生回数こそ夏の雷より少ない場合があるものの、一回あたりのエネルギーが大きく、被害が大きくなりやすいことです。また、冬の雷雲は雲底が低く、高い鉄塔や煙突、風力発電設備、送電線などから上向きに雷が伸びる「上向き雷」が発生しやすいことも知られています。夏の雷では超高層建築物で見られるような上向き雷が、冬の日本海側では数十mから数百m規模の構造物でも起こり得るとされます。
金沢は日本海に近く、冬型の気圧配置が強まると、海上で発達した雷雲がほぼそのまま市街地へ流れ込むことがあります。しかも、観音堂町の送信鉄塔は平野部に立つ高さ160m級の構造物です。低い雲底、強い冬季雷、高い鉄塔という条件が重なれば、雷害リスクは必然的に高くなります。北陸では昔から冬の雷を「雪起こし」や「ぶり起こし」と呼びますが、放送・通信インフラにとっては風情ある季節の合図ではなく、極めて深刻な自然リスクでもあります。
避雷針があっても防げないのか
送信鉄塔には当然、避雷設備や接地設備が設けられています。それでも今回のような事故が起きた理由は、雷のエネルギーが非常に大きく、電流が想定外の経路へ回り込む可能性があるためです。避雷針は雷を安全に大地へ逃がすための設備ですが、雷電流は一瞬で非常に大きな電流となり、鉄塔内部のケーブル、金属部材、接地系、避雷器などへ影響を与えます。
特に放送設備では、アンテナ、給電線、FPU、STL、監視回線、電源線など、多数のケーブルが鉄塔や局舎に接続されています。どこかに電位差が生じると、雷サージが機器側へ流れ込み、避雷器やケーブル、接続部が焼損することがあります。今回の事故では、鉄塔内部で火災が発生し、送信用ケーブルや関連設備が損傷しました。これは、避雷設備が無意味だったという話ではなく、冬季雷のような大エネルギーの雷に対して、いかに多重的な対策が必要かを示していると言えます。
事故後の教訓
この事故から見えてくる教訓は、大きく三つあります。
第一に、放送インフラは目に見えないところで地域社会を支えているということです。テレビが映らなくなって初めて、送信所や中継局、ケーブルテレビ網、技術者の存在を意識する人も多かったのではないでしょうか。災害時にテレビは重要な情報源です。そのテレビを届けるためには、送信施設の維持管理が欠かせません。
第二に、共用送信施設の重要性とリスクです。石川テレビと北陸放送のように送信施設を共用することは、設備投資や維持管理の面で合理的です。しかし、共用部分に障害が発生すると、複数局へ同時に影響する可能性があります。そのため、バックアップ送信設備、代替アンテナ、ケーブルテレビ連携、光回線による予備ルートなど、多層的な備えが重要になります。
第三に、北陸の冬季雷は全国的にも特殊な自然条件であるということです。夏の雷を前提にした雷対策だけでは不十分な場合があります。北陸の放送・通信・電力インフラでは、冬季雷の上向き雷、長時間放電、大きな電荷量、高構造物への集中落雷といった特徴を踏まえた対策が求められます。
まとめ
2018年1月10日に発生した石川テレビ・北陸放送の停波事故は、金沢市観音堂町の共用送信施設に落雷があり、鉄塔内で火災が発生したことで、送信用ケーブルや関連設備が損傷し、広範囲のテレビ放送が停止した事故でした。影響は約38万世帯に及び、仮設アンテナやケーブルテレビ網を活用した応急復旧が行われました。
この事故は、単なる「テレビが映らなかった出来事」ではありません。地域の放送インフラ、冬季雷の危険性、共用送信施設のリスク、そして復旧にあたった技術者たちの現場対応を考えるうえで、非常に重要な事例です。普段、何気なく見ているテレビの裏側には、高い鉄塔、太い送信ケーブル、送信機、監視装置、電源設備、そしてそれを守る技術者の存在があります。
北陸の冬の雷は、時に美しい雪景色の中で突然発生します。しかし、その一撃は、地域の情報インフラを止めてしまうほどの力を持っています。今回の事故は、放送と通信に関わる者にとって、そしてアマチュア無線を楽しむ私たちにとっても、電波を支える設備の大切さを改めて考えさせる出来事だったと思います。
参考資料・出典
- 石川テレビ放送『石川テレビ50年史』第1部「停波事故を乗り越えて」
- 石川テレビ放送 会社情報
- 金沢観音堂テレビジョン放送所に関する公開情報
- 観音堂デジタルテレビ放送所の送信設備紹介資料
- J-CASTニュース「石川テレビ放送と北陸放送で停波続く 鉄塔への落雷で火災」
- 音羽電機工業「石川県 鉄塔に落雷で2局のテレビ放送が中断」
- 気象庁「冬季の雷」
- 気象庁「雷検知数の季節的特徴」
- 電力中央研究所 冬季雷・上向き雷に関する研究資料
- 日本気象学会『天気』掲載論文「北陸地域における冬季雷の傾向と落雷発生環境」
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