第19回ホクリク・デジコミーティング開催のご報告

スポラディックE層(Eスポ)とは?発生の仕組みと放送や通信への影響を分かりやすく解説

アマチュア無線局 JF9OYU/ライセンスフリー無線局 いしかわJK946 です。いつもブログをお読みいただきまして、心より感謝申し上げます。

春から夏にかけて、普段は静かなアマチュア無線の50MHz帯から、日本各地の局が突然聞こえてくることがあります。FMラジオでも、いつもは何も聞こえない周波数から遠方の放送や外国語の番組が浮かび上がることがあります。

数百kmから2000kmほど離れた場所の電波が、なぜ突然届くのでしょうか。その代表的な原因が、スポラディックE層、通称「Eスポ」です。

アマチュア無線家や遠距離受信を楽しむ人にとって、Eスポは思いがけない地域と交信・受信できる魅力的な自然現象です。一方、放送局や業務無線にとっては、本来届かない遠方の電波による混信の原因にもなります。この記事では、Eスポとは何かという基本から、発生の仕組み、発生しやすい時期と時間帯、影響を受ける周波数、アマチュア無線とFM放送で起きる現象、通信への悪影響まで、順を追って解説します。

スポラディックE層とは何か

地球の上空には、太陽から届く紫外線やX線によって、大気の一部がイオンと電子に分かれた「電離圏」があります。電離圏は高度や電子密度の違いによって、主にD領域、E領域、F領域に分けられています。

スポラディックE層は、電離圏のE領域にあたる高度約90~120km付近に突発的に現れる、電子密度の高い薄い層です。「sporadic」には散発的、突発的という意味があり、「Es層」や「Eスポ」と略して呼ばれています。

通常のE領域は、太陽光によって酸素分子や窒素分子などが電離して形成されます。一方、EスポはE領域全体が一様に強くなる現象ではありません。限られた高度と範囲にイオンと電子が集まり、周囲よりも電子密度の高い薄い層が作られる現象です。

Eスポ層は平均すると厚さ1km程度、水平方向には100km規模に広がることがあるとされています。ただし、空全体を覆う均一な一枚板ではありません。電子密度に濃淡があり、風に流されながら移動したり、変形したり、複数に分かれたりします。そのため、ある地域では遠方の電波が強く聞こえていても、少し離れた場所では何も聞こえないことがあります。

「Eスポが電波を反射する」と説明されることが多いのですが、厳密には、電子密度の高い層の中で電波が屈折し、進行方向を変えながら地上へ戻ってくる現象です。初心者向けには、上空に一時的な電波の中継地点ができると考えると分かりやすいでしょう。

Eスポはいつ発生しやすいのか

日本付近では、Eスポは春から夏にかけて発生しやすく、特に5月から7月頃に活発になる傾向があります。時間帯は昼間から夕方にかけて多く観測されますが、早朝や夜間に発生することもあります。また、頻度は下がるものの、秋や冬にも発生します。

したがって、「夏の昼間だけに発生する現象」ではありません。発生しやすい季節と時間帯はあるものの、何時になれば必ず発生するという規則的な現象でもありません。数分で終わる場合もあれば、発生と衰退を繰り返しながら数時間にわたって遠距離伝搬が続く場合もあります。

太陽黒点数が多ければ必ずEスポが強くなるわけでもありません。通常のF層伝搬では太陽活動が重要になりますが、中緯度で発生するEスポでは、流星由来の金属イオンと高度約100kmの風が重要な役割を果たします。

Eスポの材料は流星由来の金属イオン

地球には、宇宙空間から微細な流星物質や宇宙塵が絶えず飛び込んでいます。流星物質が高速で大気へ突入すると、大気との衝突によって加熱され、蒸発・気化します。そこから放出された鉄やマグネシウムなどの金属原子の一部が電離し、Fe⁺やMg⁺といった金属イオンになります。

通常のE領域に多く存在する分子イオンは化学反応が速く、比較的短時間で消滅します。一方、金属イオンは化学反応が遅く、長時間残りやすい性質があります。そのため、高度約100km付近には、Eスポの材料となる金属イオンが薄く分布しています。

ただし、金属イオンが存在するだけでは、強いEスポにはなりません。広い高度範囲に散らばっている金属イオンを、狭い高度へ集める仕組みが必要です。そこで重要になるのが「ウィンドシアー理論」です。

ウィンドシアー理論でEスポが作られる

ウィンドシアーとは、場所や高度によって風向や風速が異なる状態です。航空機の運航で問題になる地上付近のウィンドシアーとは異なり、Eスポに関係するのは高度約100kmを吹く中性大気の風です。

高度100kmでは東向き、高度105kmでは西向きというように、上下で風向や風速が変わることがあります。大気は非常に薄いものの、中性大気と金属イオンは衝突するため、風が吹くと金属イオンも引きずられて動こうとします。

しかし、金属イオンは電気を帯びているため、中性大気とは違って地球の磁場の影響を受けます。その結果、風によって動かされた金属イオンには、上向きまたは下向きの動きが生じます。ある高度より上では金属イオンが下向きに動き、その下では上向きに動く条件になると、両方のイオンが一つの高度へ集まります。道路の上下から車が集まり、一か所で渋滞するような状態です。

金属イオンが集まると、電気的なバランスを保つために電子も同じ場所へ集まります。こうして、狭い高度に金属イオンと電子が集中し、電子密度の高いスポラディックE層が形成されます。

流れを簡単に整理すると、「流星物質から金属原子が供給される」「金属原子が電離して金属イオンになる」「高度によって異なる風が金属イオンを動かす」「地球磁場の作用で金属イオンが上下方向へ移動する」「金属イオンと電子が狭い高度に集まり、Eスポ層ができる」となります。

流星群の時期にはEスポも増えるのか

Eスポの材料が流星由来と聞くと、ペルセウス座流星群などの大規模な流星群が現れたときに、Eスポも増えるように思えます。しかし、流星群と強いEスポが単純に対応するわけではありません。

金属イオンは材料ですが、それを狭い高度へ集めるためには、適切なウィンドシアーが必要です。材料が増えても、イオンを収束させる風の条件が整わなければ、強いEスポにはなりません。

また、流星が通過した跡に短時間残る電離した経路を利用する「流星散乱通信」と、金属イオンが薄い層に集まって形成されるEスポ伝搬は別の現象です。どちらも流星に関係しますが、電波が伝わる仕組みや継続時間は異なります。

どのような周波数がEスポの影響を受けるのか

Eスポは、主に短波帯の高い周波数からVHF帯の低い周波数に影響します。Eスポ層の電子密度が高いほど、より高い周波数の電波まで地上へ戻されるようになります。

アマチュア無線では、21MHz帯、24MHz帯、28MHz帯、50MHz帯などでEスポによる遠距離伝搬が観測されます。FM放送もVHF帯を使用しているため、強いEスポが発生すると遠方の放送が届くことがあります。さらに強い場合には100MHzを超える電波にも影響が及ぶことがありますが、周波数が高くなるほど発生頻度は低下します。

ITU・国際電気通信連合の資料では、Eスポ伝搬は周波数が高くなるにつれて発生頻度が下がる一方、およそ135MHzまで重要な混信原因になり得るとされています。ただし、135MHzまで日常的に伝搬するという意味ではありません。50MHz帯よりFM放送帯、FM放送帯よりさらに高い周波数という順に、必要なEスポの電子密度は高くなり、発生頻度は低くなります。

ここからは、Eスポによって起きる現象を「アマチュア無線」と「FM放送」に分けて説明します。

アマチュア無線で体験するEスポ

どのバンドで遠距離交信ができるのか

アマチュア無線では、21MHz帯、24MHz帯、28MHz帯、50MHz帯を中心に、Eスポによる国内外との遠距離交信を楽しめます。

21MHz帯や24MHz帯は、通常のF層伝搬でも国内外へ届くことがありますが、春から夏にはEスポによって日本国内や近隣諸国が強く入感することがあります。28MHz帯ではSSBやCWに加え、FMでも遠距離交信が成立する場合があります。

Eスポを最も体感しやすい代表的なバンドが50MHz帯です。普段の50MHz帯は見通し範囲やその周辺との交信が中心ですが、Eスポが発生すると日本各地や近隣諸国の局が突然聞こえ始めます。平常時とオープン時の変化が大きいことから、50MHz帯は「マジックバンド」とも呼ばれています。

どのくらい遠くまで届くのか

Eスポによる1回の伝搬では、数百kmから約2000km離れた地域との交信が代表的です。日本列島では、北海道と本州、東北と西日本、関東と九州、本州と沖縄といった、通常の見通し伝搬では届かない地域同士が結ばれます。Eスポの位置によっては、韓国、中国、台湾、ロシアなど近隣諸国との交信も可能です。

送信地点から上空へ進んだ電波がEスポ層で地上方向へ戻るため、近距離には電波が降りてこないことがあります。その結果、隣県の局は聞こえないのに、1000km以上離れた局が非常に強く聞こえることがあります。電離層を経由する電波が届かない近距離の範囲は、一般に「スキップゾーン」と呼ばれます。

複数のEスポ層を経由するマルチホップ伝搬が成立すれば、さらに遠い地域へ届く可能性もあります。ただし、非常に長い距離の交信では、EスポだけでなくF層伝搬などが組み合わさっている場合があります。

どのようなモードで交信できるのか

Eスポ伝搬では、SSB、CW、FM、FT8など、さまざまなモードを利用できます。Eスポが強いときには、比較的小さなアンテナや小電力でも遠距離交信が成立することがあります。

FT8は弱い信号でも受信しやすいため、音声ではまだ聞こえない段階からEスポの発生を確認できる場合があります。SSBやCWでは、短時間に多くの地域の局が聞こえることがあります。28MHz帯や50MHz帯のFMでも、強いEスポが発生すると、遠方局がローカル局のような強さで入感することがあります。

一方、Eスポは安定した伝搬とは限りません。交信の途中で突然信号が弱くなったり、数分前まで聞こえていた地域が消え、別の地域が聞こえ始めたりします。50MHz帯で遠方局が聞こえたら、長時間聞こえ続けるとは限らないため、早めに呼び出すことも大切です。

144MHz帯でもEスポ交信はできるのか

144MHz帯でもEスポによる遠距離伝搬が起きることはありますが、50MHz帯よりはるかに高い電子密度が必要になるため、非常に珍しい現象です。

144MHz帯で遠距離局が聞こえた場合は、Eスポだけでなく、対流圏ダクト、対流圏散乱、航空機反射、山岳回折、流星散乱など、別の伝搬経路も考える必要があります。50MHz帯やFM放送帯が非常に強く開けているか、伝搬距離や方向がEスポの特徴と一致しているか、信号が急激に変化しているかなど、複数の情報を合わせて判断します。

FM放送で体験するEスポ

普段聞こえない放送が突然聞こえる

日本のFM放送は主に76~95MHzを使用しています。通常は送信所からの見通し範囲とその周辺で受信されますが、強いEスポが発生すると、数百kmから2000kmほど離れた放送局の電波が届くことがあります。

日本国内の遠方局だけでなく、韓国、中国、台湾、ロシアなどの放送が聞こえる場合もあります。海外では、日本と異なるFM放送周波数帯が使われている地域が多いため、95MHzを超える周波数まで受信できるワイドFM対応ラジオや広帯域受信機があると、海外局を受信できる範囲が広がります。

EスポによるFM放送は、空いている周波数から音楽や会話が徐々に浮かび上がったり、突然強い信号で聞こえ始めたりします。数分で消えることもあれば、強弱を繰り返しながら数十分聞こえることもあります。

FMラジオではどのように聞こえるのか

Eスポで届くFM放送には、次のような特徴があります。

  • 普段は何も聞こえない周波数から突然番組が聞こえる
  • 信号が数秒から数分単位で強くなったり弱くなったりする
  • 音声がステレオとモノラルを行き来する
  • ノイズの中から音楽や会話が浮かび上がる
  • 同じ周波数の複数の放送が入れ替わるように聞こえる
  • 地元局に遠方局の音声が重なる
  • 外国語のニュース、音楽、コマーシャルが聞こえる
  • 聞こえる国や地域が時間とともに変化する

FM受信機には、同じ周波数で複数の信号が届いたとき、より強い信号が聞こえやすくなる性質があります。地元局と遠方局の信号強度が変化すると、番組が突然入れ替わったように聞こえることがあります。これは放送局が番組を切り替えたのではなく、受信機がその時点で強い方の電波を受信しているためです。

放送局を特定するには

Eスポで受信した局を特定するときは、周波数だけで判断してはいけません。同じ周波数を複数の放送局が使用しているためです。

放送局名、地域名、時報、天気予報、交通情報、番組名、コマーシャル、使用言語などを聞き取ります。地域名が入る天気予報や交通情報、店舗名が含まれるコマーシャルは、放送地域を絞り込む有力な手掛かりになります。

受信した日時、周波数、受信場所、聞き取れた内容、信号の強さを記録し、可能であれば音声を録音しておくと、後から放送局を確認しやすくなります。

地元FM局の故障ではない

FMラジオから突然別の番組や外国語が聞こえると、地元局の送信設備やラジオが故障したように感じることがあります。しかし、多くの場合は、遠方の放送電波がEスポによって通常とは異なる経路で届いているためです。

遠方の放送局が通常より大きな出力で送信しているわけでもありません。Eスポ層が弱くなったり、位置が移動したりすれば、遠方局は聞こえなくなり、通常の受信状態へ戻ります。

Eスポが通信や放送に与える悪影響

アマチュア無線や遠距離受信では歓迎されるEスポですが、放送や業務通信にとっては混信の原因になります。

VHF帯の無線局は、通常であれば電波が見通し範囲を中心に伝わることを前提として、離れた地域で同じ周波数を再利用しています。ところがEスポが発生すると、本来届かないはずの遠方の電波が届き、同じ周波数を使用する局同士で混信が起こることがあります。

FM放送では、地元局の音声に遠方局が重なったり、受信状態が不安定になったりします。NICTは、Eスポが発達すると、通常は電離圏を通り抜ける数十MHz帯の電波が異常伝搬し、遠方のラジオ放送や防災無線などに混信を与える場合があると説明しています。

そのほか、VHF帯を使用する固定通信や移動通信などでも、非常に強いEスポが遠方からの混信原因になる可能性があります。ただし、Eスポが発生するたびに業務通信が停止するわけではありません。実際の無線システムでは、周波数計画、送信出力、アンテナの指向性、受信性能、運用手順などを通じて混信への対策が行われています。

現在の地上デジタルテレビ放送は主にUHF帯、携帯電話や無線LANはさらに高い周波数を使用しているため、一般的なEスポ異常伝搬の主な対象ではありません。かつてVHF帯を使っていたアナログテレビ放送では、Eスポによる遠方や海外のテレビ映像・音声の混信が知られていました。

Eスポの発生状況を確認する方法

日本上空のEスポ発生状況は、NICT・情報通信研究機構の宇宙天気予報で確認できます。NICTは、稚内、国分寺、山川、大宜味の国内4地点にイオノゾンデを設置し、電離圏を継続的に観測しています。

イオノゾンデは、周波数を変えながら上空へ電波を送信し、電離圏から戻ってきた信号を観測する装置です。観測結果は「イオノグラム」と呼ばれ、横軸に周波数、縦軸に見掛けの反射高度が示されます。

Eスポの強さを表す代表的な数値が「foEs」です。これは、地上から真上へ電波を送った場合に、Eスポ層から戻ってくる最大周波数を表します。NICTでは、foEsが8MHzを超えた場合を「Es層の発生」と定義して、宇宙天気予報で報告しています。

ただし、foEsが8MHzだから、8MHzより高い電波は伝わらないという意味ではありません。実際の通信では電波がEスポ層へ斜めに入るため、foEsより高い周波数でも地上へ戻る可能性があります。Eスポ層の高度、伝搬距離、入射角、電子密度などの条件が整えば、foEsが一桁から十数MHzでも50MHz帯やFM放送帯が開けることがあります。

また、NICTの観測点は国内4地点に限られています。Eスポは局地的で移動する現象のため、観測点では弱くても、離れた地域や海上に強いEスポが存在する場合があります。反対に、観測点で強いEスポが確認されても、自分の場所から希望する方向へ電波が飛ぶとは限りません。

NICTの観測値は重要な参考になりますが、実際の伝搬状況は、アマチュア無線の50MHz帯やFT8、ビーコン、FMラジオなどを直接受信して確認することが大切です。

まとめ

スポラディックE層は、高度約90~120km付近に突発的に形成される、電子密度の高い薄い層です。流星物質から供給された鉄やマグネシウムなどの金属イオンが、高度によって異なる中性大気の風と地球磁場の作用によって狭い高度へ集められることで形成されます。この基本的な仕組みがウィンドシアー理論です。

日本付近では春から夏、特に初夏の日中から夕方に発生しやすく、21MHz帯、24MHz帯、28MHz帯、50MHz帯、FM放送帯などの電波に影響します。アマチュア無線では、日本各地や近隣諸国との思いがけない遠距離交信を楽しめます。一方、FMラジオでは、遠方や海外の放送が突然聞こえたり、地元局に重なったりします。

無線を楽しむ人にとっては魅力的な異常伝搬ですが、放送や業務無線では遠方からの混信原因になります。同じ自然現象が、ある人には貴重な交信の機会となり、別の人には通信品質を低下させる要因となるところも、Eスポの興味深い特徴です。

普段は静かな無線機やラジオから突然遠方の声が聞こえてきたとき、その電波は高度約100kmに一時的に現れたEスポ層を経由して、日本列島の遠く離れた場所から届いているのかもしれません。地上の受信機を通して、流星物質、大気の風、地球磁場、電離圏の動きを感じられることが、Eスポ伝搬の大きな魅力です。

参照先

NICT・情報通信研究機構

JARL・一般社団法人日本アマチュア無線連盟

ITU・国際電気通信連合

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