先駆け!?アマチュア無線をテーマにしたMROラジオの番組「夜のききみみずきん」

かつてMROラジオに「夜のききみみずきん」という番組があったことをご存じでしょうか。

今ではアマチュア無線そのものをテーマとする民放ラジオ番組は極めて珍しい存在ですが、1990年代初頭のMROラジオでは、アマチュア無線を軸にしながら音楽やリスナーとの交流を組み合わせた番組が実際に放送されていました。

番組を担当したのは、MRO北陸放送の川瀬裕子アナウンサーです。

私の手元には1991年当時の「夜のききみみずきん」の同録が残っています。また、MRO開局70周年を迎えた2022年5月10日には、この番組が一日限りで復活しました。

今回は、MRO公式に残されている川瀬裕子さん自身の記録と、私が保管している当時の放送音源、2022年の復活放送などを基に、「夜のききみみずきん」という一風変わったラジオ番組を振り返ってみたいと思います。

全国的にも珍しかったアマチュア無線番組

「夜のききみみずきん」は、MROラジオで1991年頃から放送されていたアマチュア無線をテーマとする番組です。

この番組については、担当した川瀬裕子さん自身が2020年4月30日、MRO公式サイトの「あなろぐ」で振り返っています。

川瀬さんは1989年に北陸放送へ入社しています。MRO公式プロフィールでも1989年入社と確認できます。「夜のききみみずきん」は、その川瀬さんが入社2年目に担当した番組でした。

川瀬さん自身が「当時は全国的にもめずらしい、アマチュア無線をテーマとした番組」と記していることからも、MROの中でもかなり異色の企画だったことが分かります。

アマチュア無線家だけを対象に専門用語を並べるような番組ではありませんでした。

私が保管している初期の同録を聴いても、アマチュア無線の話題を基本にしながら、一般のラジオリスナーでも楽しめる構成になっています。初回にはアニメソングも取り上げられており、無線という専門的な題材をラジオ番組として親しみやすく伝えようとしていたことがうかがえます。

ここが「夜のききみみずきん」の面白いところです。

アマチュア無線の講座をラジオで放送するのではなく、無線を一つの文化や遊びとして捉え、音楽やトーク、リスナー参加企画へと広げていました。

川瀬裕子アナウンサー自身がアマチュア無線家になった

番組の特徴を象徴しているのが、担当パーソナリティー自身がアマチュア無線の資格を取得したことです。

川瀬さんは番組を担当するにあたり、第4級アマチュア無線技士の資格を取得し、自らアマチュア無線局を開局してコールサインを持っていました。これは川瀬さん本人がMRO公式サイトで明らかにしています。

単にスタジオで専門家から説明を受けるのではなく、パーソナリティー自身がアマチュア無線の世界に入っていったわけです。

アマチュア無線番組を作るためにアナウンサー自身が資格を取得し、自分のコールサインを持ち、実際に電波を出す。この制作姿勢は、現在振り返ってもかなり本格的です。

しかも活動はスタジオの中だけにとどまりませんでした。

公開運用をしながら生放送

川瀬さんの回顧によると、「夜のききみみずきん」では公開運用をしながら生放送する企画も行われていました。

アマチュア無線の公開運用と民放ラジオの生放送を組み合わせるという企画です。

アマチュア無線では、イベント会場や移動先などに無線設備を設置し、その場所から交信する公開運用が行われることがあります。それをMROラジオの番組企画として実施していたことになります。

ラジオ放送の電波とアマチュア無線の電波。

性格も目的も異なる二つの無線通信が、一つの番組を通して結び付いていたわけです。

現在ならインターネット配信やSNSを併用してイベント会場と放送局を結ぶことは珍しくありませんが、1991年前後は当然ながらスマートフォンもSNSもありません。

その時代に「電波」を使って番組とリスナーを直接結び付けていたことは、「夜のききみみずきん」を考えるうえで非常に重要です。

北陸放送アマチュア無線クラブ JH9YHY

番組を技術面で支えていた存在の一つが、北陸放送アマチュア無線クラブです。

コールサインはJH9YHY。

MRO公式サイトにも、北陸放送アマチュア無線クラブ JH9YHY の協力によって番組でパケット通信システムを開設していたことが記録されています。

放送局には技術職を中心にアマチュア無線を趣味とする人が多かった時代があります。

放送設備そのものが無線技術と深く関係していますので、放送技術者とアマチュア無線の親和性は高く、放送局内にアマチュア無線クラブが存在すること自体は不思議ではありません。

しかし、その社内クラブが一般向けのラジオ番組に協力し、アマチュア無線のネットワークと放送を結び付けていた点は興味深いところです。

1991年に「パケット通信」をラジオ番組へ持ち込んだ

私が「夜のききみみずきん」で特に面白いと感じるのが、パケット通信を積極的に取り入れていたことです。

現在のアマチュア無線家にはAPRSなどで馴染みがあるかもしれませんが、当時のパケット通信では、無線機とパソコンや端末の間にTNCと呼ばれる装置を接続し、文字データなどを無線で送受信していました。

JARLも、アマチュア・パケット通信について「1980年代から急激に普及が始まった」データ通信方式と説明しています。文字ベースの通信のほか、パケット通信を利用したBBSも広く利用されました。

つまり1991年頃は、パケット通信がアマチュア無線界で大きな注目を集めていた時代です。

インターネットが家庭に普及するよりも前です。

そんな時代に「夜のききみみずきん」では、北陸放送アマチュア無線クラブ JH9YHY の協力によってパケット通信システムを開設していました。

そこに寄せられた通信文を、さらに紙媒体へ展開していたのです。

番組機関紙「ききみみしんぶん」

「夜のききみみずきん」には「ききみみしんぶん」という番組機関紙まで存在しました。

川瀬さんの記録によると月1回発行され、パケット通信に寄せられた通信文なども掲載されていました。しかも購読者の約半数は石川県外だったといいます。

これも現在の感覚で考えると非常に面白い仕組みです。

ラジオで番組を聴く。

アマチュア無線で交流する。

パケット通信で文章を送る。

その文章が紙の「ききみみしんぶん」に載る。

そして、それが県外のリスナーにも郵送される。

現在ならラジオ、SNS、メッセージアプリ、ウェブサイトを組み合わせるところでしょう。

「夜のききみみずきん」は、インターネットが一般家庭へ広がる以前から、放送、無線通信、データ通信、紙媒体を横断するコミュニティーを構築していたことになります。

単なるアマチュア無線情報番組という表現だけでは、この番組の実像を十分に伝えられないと思います。

リスナーと沖縄へ

さらに驚くのが、番組のリスナーを対象にした沖縄ツアーまで企画されたことです。

川瀬さん自身がMRO公式サイトで、リスナーと一緒に沖縄へ旅行したことを振り返っています。

アマチュア無線番組から旅行企画にまで発展する。

そこには、番組を聴くだけではなく、実際に人が会い、無線を楽しむコミュニティーが形成されていたことが見えてきます。

無線という趣味には昔から、電波上で知り合った人とアイボールQSO、つまり実際に会って交流する文化があります。

「夜のききみみずきん」は、そのアマチュア無線独特の文化とラジオ番組のリスナーコミュニティーをうまく結び付けていたのでしょう。

QSLカードまで制作されていた

番組ではQSLカードも制作されていました。

QSLカードとは、アマチュア無線局同士が交信したことを確認するために交換する交信証です。

川瀬さんが2020年に「夜のききみみずきん」を振り返るきっかけになったのも、当時番組で制作したQSLカードが社内から出てきたことでした。

番組オリジナルのQSLカードが作られていたことからも、アマチュア無線が単なる番組内の一コーナーではなく、番組そのものを形作る重要なテーマだったことが分かります。

私の手元に残る1991年の同録

私の手元には「夜のききみみずきん」の初期放送の同録が残っています。

確認できる音源は、1991年4月から5月にかけての8回分です。

第1回 1991年4月6日(土)
第2回 1991年4月13日(土)
第3回 1991年4月20日(土)
第4回 1991年4月27日(土)
第5回 1991年5月4日(土)
第6回 1991年5月11日(土)
第7回 1991年5月18日(土)
第8回 1991年5月25日(土)

この並びを見ると、番組が毎週土曜日に放送されていたことが分かります。

アマチュア無線だけではなかった番組内容

残されている放送を聴くと、「夜のききみみずきん」は無線技術一辺倒の番組ではなかったことも分かります。

初回ではアニメソングも取り上げられていました。

アマチュア無線番組だからといって、無線機、アンテナ、電波伝搬といった専門的な話題だけで構成していたわけではありません。

音楽を交えながら、ラジオを楽しむ若いリスナーにもアマチュア無線という趣味を身近に感じてもらおうとしていた番組だったように感じます。

1991年当時、アマチュア無線とラジオリスナーという二つの文化には現在以上に近い部分がありました。

どちらも「電波の向こう側に誰かがいる」という楽しさを持っています。

放送局から一方向に届くラジオ。

自分からも電波を出して相手と交信できるアマチュア無線。

「夜のききみみずきん」は、その二つの世界の境界にあった番組だったのではないでしょうか。

そして31年後、2022年5月10日に一日限りの復活

北陸放送がラジオ放送を開始したのは1952年5月10日です。

MRO公式記録によれば、日本海側で最初の民間放送局としてラジオ放送を開始しました。2022年5月10日は、ちょうど開局70周年の記念日に当たります。

その2022年5月10日、MROラジオの開局記念企画の中で「夜のききみみずきん」が一日限りで復活しました。

私もJF9OYUとして出演しました。

この復活放送には、JF9OYUのほか、JH9TJT、JE9MFZが出演し、JH9DMDが電話で出演しました。

1991年から数えると31年。

アマチュア無線を取り巻く環境も大きく変わりました。

1991年当時に先端的だったパケット通信の先にはインターネットが普及し、現在ではパソコンと無線機を接続してFT8をはじめとするデジタルモードを楽しむことが一般的になりました。スマートフォンから世界中の情報へアクセスすることも当たり前です。

それでも、無線機から聞こえてくる相手の声や、電波が遠くまで届いたときの喜びそのものは変わりません。

31年を経て「夜のききみみずきん」が再びMROラジオから流れたことには、放送局の歴史を振り返るだけではない意味があったように思います。

なぜ「夜のききみみずきん」は今振り返っても面白いのか

現在から振り返ると、この番組にはいくつもの先進性が見えてきます。

アナウンサー自身がアマチュア無線技士の資格を取得する。

社内のアマチュア無線クラブと番組制作を連携させる。

公開運用を生放送する。

パケット通信でリスナーからメッセージを集める。

その内容を紙媒体として発行する。

県外のリスナーとも交流する。

さらに沖縄ツアーまで実施する。

現在なら「メディアミックス」「コミュニティー形成」「オンラインとリアルの融合」などと説明されそうなことを、1990年代初頭にアマチュア無線とラジオを使って実現していました。

しかも、それを地方の民間放送局が行っていたことに大きな意味があります。

全国ネットではなく、石川県のMROラジオから始まった番組が、アマチュア無線という電波を通して県境を越えていったのです。

これはローカルラジオとアマチュア無線の非常に幸福な組み合わせだったのではないでしょうか。

放送史だけでなく、アマチュア無線史としても残しておきたい番組

「夜のききみみずきん」は、MROラジオの歴史の中では一つの番組に過ぎないかもしれません。

しかしアマチュア無線の側から見ると、とても興味深い存在です。

民間放送局がアマチュア無線を番組の中心テーマに据え、アナウンサー自身が免許を取得し、放送局のアマチュア無線クラブが技術協力し、パケット通信や公開運用まで行った。

これほど本格的に放送とアマチュア無線を融合した番組は、全国的に見ても決して多くなかったはずです。少なくとも川瀬さん自身も、当時全国的に珍しい番組だったと振り返っています。

一方で、古い地方ラジオ番組は資料が残りにくいという問題があります。

番組表、台本、録音テープ、写真、ノベルティー、QSLカード、機関紙。

当時は日常的なものだった資料も、30年、40年と時間が経過すると、その一つ一つが放送史を知る貴重な資料になります。

「夜のききみみずきん」も同様です。

今回、手元に残る同録をあらためて聴き、MROに残る川瀬裕子さんの記録と突き合わせてみると、この番組が単なる懐かしいラジオ番組ではなく、1990年代初頭のアマチュア無線文化を記録した一つの資料でもあることが分かります。

そして2022年5月10日、MRO開局70周年という節目に一日限りとはいえ復活したことで、その歴史は1991年だけで終わらず、31年後へつながりました。

ラジオもアマチュア無線も、基本にあるのは電波です。

見えない電波の向こう側にいる誰かに声を届け、その声を誰かが受け取る。

「夜のききみみずきん」は、そんなラジオとアマチュア無線に共通する楽しさを、そのまま番組にしたような存在だったのかもしれません。

今となっては、このような番組がMROラジオで放送されていたこと自体を知らないアマチュア無線家も多いことでしょう。

だからこそ、「夜のききみみずきん」という番組が石川県のラジオに存在したことを、記録として残しておきたいと思います。

参照・資料

  • MRO北陸放送「あなろぐ」川瀬裕子「衝撃の!!!」2020年4月30日。番組「夜のききみみずきん」、QSLカード、公開運用、沖縄ツアー、JH9YHY、パケット通信、「ききみみしんぶん」についての川瀬さん本人による回顧。
  • MRO北陸放送「MRO開局70周年記念特番 ミツケテミ!いしか輪」。1952年5月10日のラジオ開局および2022年の開局70周年について。
  • MRO北陸放送「川瀬裕子 アナウンサー・パーソナリティ」。1989年入社などプロフィール確認。
  • 一般社団法人日本アマチュア無線連盟「無線機とパソコンを接続して運用する方式の紹介」。アマチュア・パケット通信の歴史、TNC、通信方式などの確認。
  • 筆者保管「夜のききみみずきん」1991年4月~5月放送同録8回分。
  • 筆者保管「MROラジオ『夜のききみみずきん』」2022年5月10日放送同録。

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