ラジオ放送局を調べていると、周波数や送信出力、送信所だけでなく「コールサイン」に興味が向くことがあります。
日本の放送局ではJOから始まる4文字の呼出符号が使われています。例えば、MROラジオはJOMR、J-WAVEはJOAV-FM、FM FUJIはJOCV-FM、エフエム石川はJOHV-FMです。
そんなFM局のコールサインを順番に眺めていると、妙なことに気付きます。
JOAV-FMの次が、JOBV-FMではありません。
JOCV-FMなのです。
では、JOBV-FMはどこへ行ったのでしょうか。
調べてみると、そこには戦後のNHK地方放送局から現在の民放FM局へ続く、日本の放送コールサイン史の興味深い空白が残されていました。
そもそもコールサインとは何か
コールサインは、日本語の法令上では「呼出符号」と呼ばれ、無線局を識別するための識別信号の一つです。電波法や電波法施行規則では無線局に識別信号を指定する仕組みが定められており、放送局の「JOAK」「JOMR」「JOAV-FM」といった符号もその一種です。
FM放送の場合は、4文字の呼出符号に「-FM」が付加されます。
例えば東京のJ-WAVEはJOAV-FMです。J-WAVEの公式会社概要でも、コールサインJOAV-FM、開局1988年10月1日とされています。
山梨県のFM FUJIはJOCV-FMで1988年8月8日開局、埼玉県のNACK5はJODV-FMで1988年10月31日開局です。両社とも公式資料で現在のコールサインを確認できます。
ここで並べてみます。
| コールサイン | 放送局 | 開局 |
|---|---|---|
| JOAV-FM | J-WAVE | 1988年10月1日 |
| JOBV-FM | 欠番 | ― |
| JOCV-FM | FM FUJI | 1988年8月8日 |
| JODV-FM | NACK5 | 1988年10月31日 |
| JOEV-FM | エフエム山形 | 1989年 |
| JOFV-FM | FM802 | 1989年 |
| JOGV-FM | bayfm | 1989年 |
| JOHV-FM | エフエム石川 | 1990年 |
放送局の呼出符号資料を確認しても、民放FM局のV系列はJOAV、JOCV、JODV、JOEV……と続き、JOBVだけが空白になっています。
そして地元石川県のエフエム石川は、現在もJOHV-FMを使用しています。エフエム石川公式サイトによれば1990年4月1日開局、親局はJOHV-FM、80.5MHz、1kWです。
実は「JOBV」は昔存在していた
ではJOBVという4文字そのものが、最初から使われなかったのでしょうか。
そうではありません。
JOBVは実在したコールサインです。
1957年1月1日からNHK豊岡放送局のラジオ第2放送で使われ、1967年11月1日の呼出符号整理によって廃止されたことが確認できます。
つまり、正確には
「JOBVは欠番」
ではありません。
かつてJOBVは存在しました。
現在まで存在していないのは、
「JOBV-FM」
です。
この区別は非常に重要です。
NHK豊岡のラジオ第2放送で使われたJOBVと、民放FM局に付与される可能性があったJOBV-FMは、同じ4文字を基礎としていますが、放送局としては別の時代、別の放送サービスです。
NHK豊岡はJOBUとJOBVを持っていた
さらに興味深いのが、当時のNHK豊岡放送局です。
豊岡では第1放送にJOBU、第2放送にJOBVが使用されていました。JOBUは1948年7月1日からNHK豊岡第1放送に使われ、JOBVは1957年1月1日から第2放送に使われています。いずれも1967年11月1日に呼出符号が廃止されています。
ここで、JOBV-FM欠番問題を考えるうえで非常に重要な事実があります。
JOBUはその後、FM大阪のコールサインとして再利用されました。
FM大阪は現在もJOBU-FMです。放送局呼出符号資料では、旧NHK豊岡のJOBUと、その後の民放FM局としてのJOBU-FMの双方を確認できます。
つまり、
NHK豊岡第1放送 JOBU
NHK豊岡第2放送 JOBV
だったものの、
JOBU → FM大阪のJOBU-FMとして再利用
JOBV → JOBV-FMとしては再利用されず
という違いが生まれたことになります。
これは非常に興味深いところです。
「昔NHKが使っていたから欠番」という説明は成立しにくい
JOBV-FMについて、「以前NHKが使用したコールサインだから再利用されなかったのではないか」と考えることもできます。
しかし、実際のコールサイン史を確認すると、この説明だけでは辻褄が合いません。
先ほどのJOBUが典型例です。
NHK豊岡で使われていたJOBUは、その後FM大阪のJOBU-FMとして再利用されています。
さらにV系列にも同じ例があります。
JOCVは1956年からNHK豊橋のラジオ第2放送で使われ、1982年にJOCZへ変更された後、1988年にFM FUJIのJOCV-FMとして使われるようになりました。
JOGVも旧NHK人吉、JOHVも旧NHK阿久根・名瀬、JOIVも旧NHK日田、JOJVも旧NHK七尾、JOKVも旧NHK新見で使用歴があります。それらの符号は後年、民放FM局に再利用されています。
したがって、
「一度NHKで使われたコールサインは民放FMでは再利用できない」
というルールが存在したとは考えられません。
むしろ、旧NHK局で使われていたU系列やV系列の呼出符号が、後年の民放FM局に再利用された例は数多くあります。
JOCVの方がJOBVより長くNHKで使われていた
もう一つ注目したいのがJOCVです。
JOBVは1967年11月1日に廃止されています。
一方、NHK豊橋ラジオ第2のJOCVは1982年11月1日まで使われ、その後JOCZへ変更されています。
つまり1980年代後半の民放FM局へのV系列割り当てを考えれば、JOBVの方がJOCVより15年ほど早く空いていたことになります。
ところが実際には、1988年に山梨県で開局したFM FUJIにJOCV-FMが割り当てられ、JOBV-FMは使われませんでした。FM FUJI公式資料でも開局日は1988年8月8日、コールサインはJOCV-FMと確認できます。
単純に「以前使用されていたから」という理由では、これも説明できません。
V系列はその後も順番に使われていった
さらに不思議なのは、その後の展開です。
V系列は1988年以降、民放FM局の開局に伴って次々と使用されていきました。
JOAV、JOCV、JODV、JOEV、JOFV、JOGV、JOHV、JOIV、JOJV、JOKV……と続き、1990年代にはJOQV、JORV、JOSV、JOTV、JOUVなども使われました。
さらに1999年には岡山エフエム放送のJOVV-FM、2000年には新潟県民エフエム放送「FM PORT」のJOWV-FM、2001年には岐阜エフエム放送のJOXV-FMまで使用されています。
つまりアルファベットのかなり後ろまでV系列が消化されているにもかかわらず、入口に近いJOBV-FMだけが残り続けました。
JOAV-FM
JOBV-FM 欠番
JOCV-FM
JODV-FM
JOEV-FM
JOFV-FM
JOGV-FM
JOHV-FM
……
JOVV-FM
JOWV-FM
JOXV-FM
こうして並べると、JOBV-FMの空白はかなり目立ちます。
では、なぜJOBV-FMは飛ばされたのか
ここが今回の記事で最も知りたいところですが、結論から申し上げると、
「なぜJOBV-FMを使用しなかったのか」
という理由を明記した郵政省や総務省の公式な公開資料は、今回確認した範囲では見つけることができませんでした。
したがって、特定の理由を断定することはできません。
「NHK豊岡で以前使用していたため」
「大阪地区との関係で留保されたため」
「将来の特定地域のFM局用として確保されていたため」
「既存のコールサインとの混同を避けるため」
など、さまざまな可能性を想像することはできますが、それを裏付ける公的資料がない以上、事実として記載することは避けるべきでしょう。
分かっているのは、JOBVが1967年に廃止されていたにもかかわらず、1980年代後半に民放FM向けV系列が使用され始めた際にJOBV-FMが使われず、JOCV-FM以降へ進んだという事実です。
「JOBV-FMは奈良や和歌山用だった」という話には注意
インターネットを検索すると、JOBV-FMを奈良県や和歌山県の架空FM放送局に設定したページなども出てきます。
しかし、それらは実在する放送局ではありません。
2026年現在も奈良県には県域民放FM局がなく、和歌山県についても同様です。「JOBV-FMが奈良や和歌山のために予約されていた」と確認できる郵政省・総務省の公式資料も、今回の調査では確認できませんでした。
少なくとも、架空放送局の設定を根拠に「JOBV-FMは○○県用だった」と判断することはできません。
石川県から見るとさらに面白いV系列
私が住む石川県からこの歴史を見ると、V系列にはさらに面白い縁があります。
現在のエフエム石川はJOHV-FMです。
一方、JOJVはかつてNHK七尾のラジオ第2放送で使われていました。1959年10月29日から1967年11月1日まで使用された記録が残っています。そのJOJVは後年、FM大分のJOJV-FMとして再利用されました。
つまり現在FM局で聞くコールサインの中には、数十年前には全く別の地域のNHK局で使われていたものがあります。
コールサインだけを追いかけても、日本の放送網がどのように整備され、整理され、そして新しい放送局へ符号が受け継がれてきたのかが見えてきます。
JOBV-FMは「永久欠番」なのか
もう一つ注意したいのが「永久欠番」という表現です。
JOBV-FMが現在使用されていないことは確認できますが、将来にわたって絶対に使用されないと決められていることを示す公的資料は確認できません。
したがって、厳密には「永久欠番」と断定するより、
「現在まで民放FM局には割り当てられていない呼出符号」
あるいは単に
「欠番」
と表現するのが適切だと思います。
電波行政上の事情が変わり、新しい県域FM局などが誕生した場合にJOBV-FMが使用される可能性まで否定することはできません。
もっとも、現在の放送事業を取り巻く環境を考えると、新しい県域民放FM局が誕生する機会そのものが非常に少なくなっています。結果としてJOBV-FMは、このまま日本の放送史に残る空白となる可能性もあります。
なぜ一つだけ空いているのか。それが面白い
今回JOBV-FMについて調べ始めた時、最初は単純に「割り当てられなかったコールサインなのだろう」と考えていました。
ところが調べてみると、JOBVは1957年から1967年までNHK豊岡ラジオ第2で実際に使われていました。
さらに同じ豊岡で使われていたJOBUはFM大阪のJOBU-FMとして再利用されています。
JOBVより長くNHK豊橋で使われていたJOCVもFM FUJIのJOCV-FMになりました。
旧NHK人吉のJOGV、旧NHK七尾のJOJVなど、ほかのV系列も次々と民放FM局へ引き継がれています。
それでも、なぜかJOBV-FMだけが使われませんでした。
理由を示す一次資料が見つかっていない以上、「これが理由だ」と結論付けることはできません。
しかし、理由が分からないからこそ興味深いともいえます。
周波数や送信所、アンテナ、送信出力といった技術資料だけでなく、わずか4文字のコールサインを追いかけていくだけでも、日本の放送史にはこれほど多くの物語が隠れています。
いつか郵政省時代の内部資料や電波監理関係資料の中から、なぜJOBV-FMが飛ばされたのかを示す記録が見つかれば、この謎にも答えが出るかもしれません。
それまでは、JOAV-FMとJOCV-FMの間に残された「JOBV-FM」という空白も、日本のFM放送史を楽しむ一つの題材として覚えておきたいと思います。
参照
- J-WAVE「会社情報」 JOAV-FM、開局年月日、送信設備等。
- FM FUJI「Corporate Profile」 JOCV-FM、開局日、周波数等。
- FM NACK5「会社概要」 JODV-FM、開局日、周波数等。
- エフエム石川「会社概要」 JOHV-FM、開局日、親局・中継局等。
- e-Gov法令検索「電波法」「電波法施行規則」 識別信号・呼出符号に関する法令。
- 「日本の放送局所の呼出符号」 旧NHK局を含むU系列・V系列の使用履歴と民放FM局への割り当て状況。
- 「昭和43年頃までNHKが使っていた、JO□Vのコールサイン」 NHK豊岡JOBVなどの履歴。






















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