FT8の楽しみ方〜初心者でもわかる仕組み・必要な機器・WSJT-Xの設定と交信方法〜

アマチュア無線局 JF9OYU/ライセンスフリー無線局 いしかわJK946 です。いつもブログをお読みいただきまして、心より感謝申し上げます。

さて、アマチュア無線を運用していると、一度は「FT8」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。無線機の前でマイクを握ってCQを出すSSBやFM、モールス符号を使うCWとは大きく異なり、FT8では無線機とパソコンを接続し、画面に次々と表示されるコールサインを見ながら交信を行います。

一見すると「パソコンが勝手に交信しているだけではないか」と思われるかもしれません。しかし、実際に運用してみると、ノイズの中に埋もれて耳では聞き取れないような信号が突然デコードされたり、数W程度の小さな送信出力で海外まで電波が届いたり、144MHzや430MHzといったVHF・UHF帯で思いがけない遠距離伝搬に遭遇したりと、アマチュア無線らしい実験性に富んだモードです。

今回は、これからFT8を始めてみたいという方に向けて、そもそもFT8とは何なのか、必要になる無線機やパソコン、ソフトウェア、初期設定、実際の交信方法、そしてFT8ならではの楽しみ方まで順を追って紹介します。

FT8とは

FT8は、微弱な信号でも通信を成立させることを目的として開発されたアマチュア無線用のデジタル通信方式です。2017年7月にWSJT-Xへ導入され、K9ANことSteve Franke氏とK1JTことJoe Taylor氏によって開発されました。「FT8」の名称はFranke、Taylorと8-FSKに由来します。現在のFT8ではガウシアン平滑化された連続位相の周波数偏移方式を用い、強力な誤り訂正技術と組み合わせて弱い信号を復調します。

FT8では送信と受信を15秒単位で交互に行います。1回の実際の送信時間は約12.6秒で、コールサイン、グリッドロケーター、信号レポート、確認応答など、一般的なアマチュア無線の交信に必要な情報を非常にコンパクトなデータとして送信します。現在のプロトコルでは77ビットのユーザー情報が使われています。

通常の音声通信では聞き取ることが難しいほど弱い信号から情報を復元できるところがFT8の大きな特徴です。WSJT-X 1.8の発表時には、AWGNと呼ばれる標準的な雑音環境において約マイナス20dBまでを一つの目安としていましたが、その後もデコード処理は改良されています。現在のWSJT-X公式サイトでも、耳には聞こえないほどノイズフロアより下にある信号をデコードできることがFT8を含む弱信号通信の特徴として紹介されています。

つまりFT8は、「強い信号を確実に届ける」ことより、「どこまで弱い信号を拾い上げられるか」に重点を置いた通信方式と考えると分かりやすいでしょう。

FT8を始めるために必要なもの

FT8というと難しい装置が必要と思われるかもしれませんが、最近のHF帯対応オールモード機であれば比較的簡単に始められます。

必要なもの役割
アマチュア無線機FT8の信号を送受信します
アンテナ運用する周波数帯に対応したものを使用します
パソコンFT8信号の生成、デコード、交信操作を行います
WSJT-XFT8を運用する代表的なソフトウェアです
USBケーブルまたはインターフェース無線機とパソコンの音声、CAT、PTTなどを接続します
正確な時計各局の15秒周期を合わせるため必要です
インターネット環境時刻同期やPSK Reporterなどの利用に便利です

比較的新しい無線機にはUSBオーディオインターフェースやCAT制御機能が内蔵されている機種があり、この場合はUSBケーブル1本でパソコンと接続できることがあります。一方、USBオーディオ機能を持たない無線機では、送受信音声をパソコンとやり取りするための外部インターフェースなどが必要になります。WSJT-Xでは無線機のCAT制御、PTT制御、オーディオ入力・出力を設定できるようになっています。

FT8の中心となるソフトウェア「WSJT-X」

現在、FT8を始める場合にまず使用したいソフトウェアがWSJT-Xです。Joe Taylor氏を中心とするWSJT Development Teamによって開発されているオープンソースソフトウェアで、FT8のほかFT4、Q65、JT65、MSK144、WSPRなど、多くの弱信号通信モードを搭載しています。

2026年8月18日の記事執筆時点における公式の最新General Availability版はWSJT-X 3.0.2で、Windows、macOS、Linux向けのインストーラーが公式に提供されています。インターネット上には派生版もありますが、初めてFT8を運用する場合は、まずWSJT Development Teamが公開する公式版から始めるのが分かりやすいでしょう。

FT8ではパソコンの時計が非常に重要

FT8を始める際、意外に重要なのがパソコンの時計です。

FT8は世界中の局が15秒単位の決められた時間に合わせて送受信しています。そのためパソコンの時計が大きくずれていると、どれだけ強い信号が入っていても正常にデコードできなくなることがあります。WSJT-Xの公式ユーザーガイドでは、パソコンの時計をUTCに対してプラスマイナス1秒以内に同期する手段が必要とされています。

WindowsやmacOSにもインターネットを利用した時刻同期機能がありますが、FT8を本格的に運用する場合には時計のずれを意識しておくことが大切です。画面上で多くの局のDT値が同じ方向に大きくずれているようなら、自分のパソコン側の時刻を疑ってみるのも一つの方法です。

WSJT-Xを最初に設定する

WSJT-Xをインストールしたら、まず自局の情報を登録します。Settings画面のGeneralで自分のコールサインとグリッドロケーターを設定し、Radioでは使用する無線機とCAT制御、PTTの方法を設定します。Audioでは無線機と接続されているパソコン側の入力デバイスと出力デバイスを指定します。公式ユーザーガイドにも、インストールから無線機設定、実際の最初の交信までを順番に確認できる操作ガイドが用意されています。

CAT制御が正常であれば、WSJT-Xでバンドを変更すると無線機側の周波数も連動して変更されます。PTT制御が正常なら、WSJT-Xから送信を開始したときに無線機が自動的に送信状態へ切り替わります。

ここまで確認できれば、FT8を受信する準備はほぼ完了です。

まずは送信せず、FT8を受信してみよう

初めてFT8を使うときは、すぐCQを出すのではなく、最初は受信だけしてみることをおすすめします。

WSJT-XでModeをFT8にして、運用したいバンドを選択します。無線機をUSBまたはDATA系のUSBモードに設定し、Monitorを開始すると、Wide Graphと呼ばれるウォーターフォール画面に信号が現れ始めます。

しばらくするとBand Activity欄に、

CQ JA1XXX PM95

のような文字が表示されます。

これは「JA1XXX局がCQを出しており、グリッドロケーターはPM95」という意味です。

画面にはコールサインのほかUTC、dB、DT、Freqなどの情報も表示されます。dBは受信した信号のS/Nを示す値で、マイナスの数字が大きくなっていくほど弱い信号になります。DTは相手局との時間差、Freqは無線機のダイヤル周波数に対するオーディオ周波数の位置を表します。

最初は全部理解する必要はありません。「画面にコールサインが次々と出てくればFT8の受信は成功している」と考えて大丈夫です。

実際にFT8で交信してみる

受信が正常にできることを確認したら、いよいよ交信です。最初はBand Activityに表示されているCQ局を呼んでみるのが分かりやすいでしょう。WSJT-Xには交信を順番に進めるAuto Sequencing機能があり、基本的なFT8交信ではコールサイン、グリッド、信号レポート、確認応答を定型的な順序で交換します。FT8の標準的な通信内容がコールサイン、Maidenheadグリッド、信号レポート、確認応答から構成されることは、FT8プロトコルの技術資料にも示されています。

基本的な流れは次のようになります。

  1. WSJT-XでFT8を選び、運用するバンドへ移動する
  2. Monitorを開始してFT8信号を受信する
  3. Band Activityから交信したいCQ局をダブルクリックする
  4. 相手局のコールサインがDX Callへ入り、送信メッセージが生成される
  5. Enable Txを有効にして相手局を呼ぶ
  6. 相手から自局への信号レポートが返ってくる
  7. R付きの信号レポートを返す
  8. RR73または73を交換して交信を完了する
  9. Log QSO画面で交信記録を保存する

相手がこちらを受信できなかった場合には同じメッセージが再度送信されます。また、CQを出している局を複数の局が同時に呼んでいる場合には、自分より強い局が先に応答されることも珍しくありません。

FT8は「クリックすれば必ず交信できる」モードではありません。相手局までの伝搬状態、アンテナ、送信出力、混信、送信するオーディオ周波数の位置などによって結果が変わります。そこにアマチュア無線としての面白さがあります。

FT8では送信出力をどう考えるか

FT8は弱い信号でも通信できるため、必ずしも大きな送信出力を必要としません。まずは無理のない出力から始め、交信状況を見ながら調整する方がFT8の特徴を楽しめます。

一方で注意したいのは、FT8では1回あたり約12.6秒間、ほぼ連続した信号を送信するという点です。音声SSBのように声の強弱によって平均電力が大きく変化する運用とは性質が異なるため、無線機やリニアアンプの連続送信条件、冷却状態には十分注意する必要があります。

また、パソコンから無線機へ送り込むオーディオレベルを過大にすると、不要な信号を発生させる原因になります。送信出力だけを見るのではなく、無線機のALC表示や送信状態を確認しながら、適切なオーディオレベルで運用することが重要です。

FT8だから最初から100W必要ということではありません。むしろ10W、5W、さらにそれ以下へ出力を落とし、「この設備、このアンテナ、この出力でどこまで届くのだろう」と試してみるところにFT8の面白さがあります。

運用周波数とバンドプランには注意

FT8では各バンドに広く利用されている運用周波数がありますが、「FT8ならどこで送信してもよい」という意味ではありません。日本国内から運用する場合は、日本の周波数使用区別とJARLアマチュアバンドプランを確認する必要があります。

JARLはFT4・FT8をSSB送信機を使用した帯域幅3kHz以下の「狭帯域データ」に分類しており、2023年のバンドプラン改正では144MHz帯の144.20~144.50MHz、430MHz帯の430.10~430.70MHzについてもFT4・FT8などのデータ通信に使用できることを明確にしています。

また7MHz帯では少し注意が必要です。7.074MHz付近は世界的によく知られたFT8運用周波数ですが、JARLは日本国内局同士のFT8交信について、国際的なバンドプランとの整合を図る観点から7030~7040kHz、キャリア周波数では7030~7037kHzでの運用を呼びかけています。

運用慣習やソフトウェアの推奨周波数は変更される可能性がありますので、古い周波数表だけを頼りにせず、最新のバンドプランとWSJT-Xの設定を確認することをおすすめします。

FT8の面白さは「遠くと交信できる」だけではない

FT8を始めて最初に面白いと感じるのは、やはりDXでしょう。

国内局しか見えていなかった画面に突然韓国、中国、台湾、ロシア、オーストラリア、北米、ヨーロッパなどのコールサインが表示されると、それだけでも電波伝搬が目で見えるような感覚があります。

しかし、FT8を長く楽しむのであれば、単純に交信局数を増やすだけでは少々もったいないと思います。

例えば送信出力を50Wから10W、5W、1Wへ徐々に落として、どこまで届くのかを試してみる。アンテナの向きを変え、受信レベルが何dB変化するかを見る。異なるアンテナを比較する。時間帯によってどの地域が見えるか観察する。こうした実験を始めると、FT8は非常に面白い電波伝搬の観測手段になります。

PSK Reporterと組み合わせるとさらに面白い

FT8を始めたらぜひ使ってみてほしいのがPSK Reporterです。

PSK Reporterは世界各地の受信局から送られてきた受信情報を集約しており、自分の電波が「どこの局まで届いたのか」を地図上で確認できます。WSJT-XにはPSK Reporterへ受信情報を送信する機能が組み込まれており、Reporting設定から有効にできます。

CQを出したものの誰からも応答がなかった場合でも、PSK Reporterを確認すると、

「北海道では受信されていた」
「韓国まで飛んでいた」
「ヨーロッパの複数局に届いていた」

ということがあります。

つまりFT8では、交信が成立しなかった送信も貴重なデータになります。PSK Reporter自身も、自局のCQがどこで受信されたかを数分後に確認でき、電波伝搬の確認やアンテナ、無線設備の調整に利用できるサービスとして説明しています。

HFだけでなく50MHz、144MHz、430MHz、1200MHzも面白い

FT8というとHF帯のDX通信を思い浮かべる方が多いと思いますが、50MHz以上でも非常に興味深いモードです。

50MHzではスポラディックE層、144MHzや430MHzでは対流圏伝搬、ダクト、散乱、回折などによって、通常では考えにくい距離の局が突然デコードされることがあります。さらに1200MHz帯などへ上がると、アンテナの指向性、地形、見通し、反射などの影響がより顕著になります。JARLも1200MHz帯について、直進性の強さやビル反射、山岳回折などを実体験できる周波数帯として紹介しています。

普段はまったく見えない地域の局が突然画面に現れたら、「今日は何が起きているのだろう」と考えてみる。気圧配置や天候、時間帯、アンテナ方向などを記録していけば、単なる交信記録から電波伝搬の観測記録へ変わっていきます。

初心者がうまくいかないときに確認したいこと

FT8を始めたばかりの頃は、「ウォーターフォールには信号が見えるのにデコードされない」「受信はできるが送信できない」「送信はできるが誰からも応答されない」といった問題が起こることがあります。

信号が見えるのにデコードされない場合は、まずパソコンの時計を確認します。その次にWSJT-Xへ正しい受信音声が入力されているか、無線機がUSBまたはDATA USBなど適切なモードになっているか、フィルターが極端に狭くなっていないかを確認します。

送信できない場合はCAT、PTT、オーディオ出力デバイスの設定を確認します。

正常に送信できているのに応答がない場合は、それが故障とは限りません。単純に相手まで電波が届いていないこともありますし、相手局を多くの局が呼んでいる可能性もあります。PSK Reporterを確認すると、自分の送信信号が実際にどの地域まで届いていたのか判断する材料になります。

FT8は「自動交信」ではなく電波を観察する楽しみ方もある

FT8については、ときどき「パソコン同士が勝手に交信しているだけ」という評価を耳にします。

確かに、コールサインをクリックして定型的な信号レポートを交換することだけに注目すれば、SSBで会話をする楽しさやCWを自分で操作する楽しさとは大きく異なります。

しかし、見方を少し変えるとFT8は非常にアマチュア無線らしいモードです。

なぜ今日はヨーロッパが見えているのか。なぜ昨日は届いた北海道が今日は見えないのか。10Wまで出力を落としても海外へ届くのか。アンテナを北へ向けたときと東へ向けたときで受信レベルはどう変化するのか。144MHzで普段は見えない遠方局が突然デコードされたのは、どのような伝搬だったのか。

こうした疑問を持つようになると、画面に並んでいるコールサインと数字が、単なる交信相手の一覧ではなくなります。

その瞬間の電離層、大気、地形、アンテナ、送信出力、受信性能など、さまざまな条件が重なった結果として表示されている「電波伝搬の観測データ」に見えてきます。

FT8の本当の楽しさは、ここにあるのではないでしょうか。

HFで世界中との交信を楽しむのもよし、QRPで限界へ挑戦するのもよし、DXCCやJCC、グリッドロケーターを集めるのもよし、50MHz以上で異常伝搬を追いかけるのもよし。楽しみ方は一つではありません。

まだFT8を経験したことがない方は、まず無線機とパソコンを接続し、送信せずにWSJT-Xで15分ほど受信してみてください。

画面に日本全国、そして海外のコールサインが次々と現れるだけでも、「こんな電波が今ここまで届いているのか」と驚かれると思います。

そこからFT8の世界が始まります。

 

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