FM長野「大鹿中継局」が2026年11月に廃止へ〜81.8MHzが山あいへ届けた約29年〜

アマチュア無線局 JF9OYU/ライセンスフリー無線局 いしかわJK946 です。いつもブログをお読みいただきまして、心より感謝申し上げます。

さて、長野エフエム放送株式会社は、長野県下伊那郡大鹿村に設置している「大鹿中継局」を、2026年11月29日(日)の放送プログラムをもって廃止すると発表しました。

大鹿中継局は1997年に開設され、81.8MHz、空中線電力1WでFM長野の番組を放送してきました。廃止理由としてFM長野が挙げているのは、設備の老朽化と放送体制の見直しです。

約29年間にわたり、南アルプスと伊那山地に挟まれた大鹿村の山間部へ電波を届けてきた小規模な中継局が、その役割を終えることになります。

FM長野・大鹿中継局の概要

大鹿中継局の主な諸元は次のとおりです。

項目内容
正式な呼称FM長野 大鹿中継局
放送事業者長野エフエム放送株式会社
所在地長野県下伊那郡大鹿村鹿塩字南山
設置地点中尾無線中継所の西方とされる地点
設置標高約1,442~1,443メートル
周波数81.8MHz
空中線電力1W
実効輻射電力1.05Wとする技術資料あり
中継方式美ヶ原送信所からの放送波を受信して再送信
開設年1997年
廃止予定2026年11月29日の放送プログラム終了後
廃止理由設備の老朽化、放送体制の見直し

周波数と空中線電力は、FM長野の会社概要でも「大鹿 81.8MHz、1W」と公表されています。同社全体のサービスエリアは「長野県全域と新潟県の一部」とされていますが、これは美ヶ原送信所と各中継局を合わせた放送網全体のエリアです。大鹿中継局単独の放送区域を示した公式な電界強度図や放送区域内世帯数は、公開資料から確認できませんでした。

なぜ大鹿村に中継局が必要だったのか

大鹿村は長野県下伊那郡の北東部に位置し、東側には標高3,000メートル級の南アルプス、西側には伊那山地が連なっています。村の総面積は248.28平方キロメートルに及びますが、平地は少なく、鹿塩川、小渋川、青木川などの谷に沿って集落が形成されています。

FM放送で使用されるVHF帯の電波は、基本的に送信所から見通せる方向へ伝わりやすく、山の背後や深い谷では弱くなります。長野県のように山岳が多い地域では、送信出力を大きくするだけで県内全域を均一にカバーすることは困難です。

FM長野の親局である美ヶ原送信所は79.7MHz、1kWで広い範囲へ電波を送っていますが、大鹿村との間には複雑な山岳地形があります。飯田中継局も88.3MHz、100Wで放送していますが、伊那谷と大鹿村の間には伊那山地が横たわっています。

大鹿中継局は、こうした地形によって生じる受信困難地域を局地的に補完するための中継局でした。空中線電力はわずか1Wですが、標高約1,440メートルの地点から、谷の形に合わせた送信アンテナを使うことで、大鹿村内の居住地域へ効率的に電波を届けていたと考えられます。

美ヶ原の放送波を受信して再送信

2020年に大鹿FM中継放送所を訪問した記録によると、同所には美ヶ原方面へ向けられた5素子八木アンテナが上下2段で設置されていました。

この受信アンテナはFM長野とNHK-FMで共用され、美ヶ原送信所から届く放送波を受信していたとされています。FM長野の場合は、美ヶ原送信所の79.7MHzを受信し、中継装置を通して大鹿局の81.8MHzで再送信する放送波中継方式です。

5素子八木アンテナを2段に重ねることで、単独のアンテナよりも受信利得を確保し、目的方向から届く電波を安定して受信しやすい構成になります。山岳地に設けられた放送波中継局では、親局の信号をいかに良好な品質で受信するかが重要です。

一方、局舎内に設置されているFM中継装置や送信機については、メーカー、型式、製造年、予備機の有無などを確認できる公式資料は見つかりませんでした。

設備の外観だけからメーカーや型式を推定することはできません。FM長野の発表では「設備の老朽化」とされていますが、具体的に送信機、受信装置、電源設備、監視制御設備のどの部分が更新時期を迎えているのかまでは公表されていません。

送信アンテナは3素子八木1段3面

大鹿中継局の送信アンテナについて、2020年の現地記録では「3素子八木アンテナ1段3面」と報告されています。こちらもFM長野とNHK-FMの共用設備です。

「1段3面」とは、鉄塔の同じ高さに3基の八木アンテナを設け、それぞれを異なる方向へ向けた構成を指します。単純な無指向性アンテナで周囲へ均等に送信するのではなく、必要な方向へ電波を配分することで、山や谷が入り組んだ大鹿村の地形に対応していたとみられます。

ただし、3面それぞれの正確な方位角や垂直面指向性、給電比率については公開資料で確認できませんでした。鹿塩地区から大河原地区にかけての谷沿いを意識した構成と考えられますが、アンテナの方向を示す正式な資料がない以上、具体的な方位を断定することはできません。

民間の送信所資料には、空中線電力1Wに対して実効輻射電力1.05Wと記載されています。実効輻射電力は送信機の出力そのものではなく、給電線や分配器の損失、アンテナの利得などを含め、基準アンテナに置き換えた場合の実質的な放射電力を示す数値です。

大鹿中継局が担ってきたサービスエリア

大鹿中継局単独の正式なサービスエリア図は確認できませんが、設置場所、送信出力、アンテナ構成から判断すると、大鹿村内の鹿塩川、小渋川、青木川などに沿った居住地域を主な対象としていたと考えるのが妥当です。

大鹿村全域は東西約16キロメートル、南北約28キロメートルに及びます。面積の大部分が山林であるため、1Wの大鹿中継局が村内のすべての沢や山間部を均一にカバーしていたわけではありません。受信状況は中継局との見通し、谷の向き、周辺の山、建物、使用するアンテナによって大きく変わります。

2026年に道の駅「歌舞伎の里大鹿」周辺で行われた受信記録では、大鹿中継局の81.8MHzは比較的安定して受信され、美ヶ原送信所の79.7MHzは弱いながらも受信できた一方、飯田中継局の88.3MHzは確認できなかったと報告されています。

これは一地点、一時点での受信結果であり、正式なエリア調査ではありません。しかし、大鹿中継局が村内で安定したFM長野の受信環境を確保するうえで、重要な役割を担ってきたことを示す実例といえます。

廃止後にFM長野を聴く方法

FM長野と大鹿村は、大鹿中継局の廃止後について、次の聴取方法を案内しています。

聴取方法周波数・サービス注意点
美ヶ原送信所79.7MHz、1kW地形や建物により受信状況が異なる
飯田中継局88.3MHz、100W伊那山地の影響を受ける場所がある
cvnのFM再放送アンテナ端子から88.3MHz対応する有線放送サービスの利用環境が必要
cvn結チャンネル地上デジタル12チャンネル「ラジオ・ライブカメラチャンネル」テレビサービスの契約・設備が必要
radikoインターネット配信インターネット回線と対応端末が必要

美ヶ原送信所や飯田中継局からの直接受信については、屋内のロッドアンテナだけで十分に受信できない場合があります。ラジオを窓際へ移動する、アンテナの向きを変える、屋外FMアンテナを使用するといった方法で改善する可能性があります。

ただし、大鹿村では山や谷の影響が大きいため、送信所との距離が近いからといって必ずしも強く受信できるとは限りません。廃止前に81.8MHz以外の受信状態を確認し、必要に応じてcvnやradikoの利用環境を整えておくことが望まれます。

NHK-FM大鹿中継局は別の放送局

大鹿FM中継放送所には、FM長野だけでなくNHK-FMの大鹿中継局も設置されています。

NHK-FM大鹿中継局は85.0MHz、空中線電力1Wです。受信アンテナ、送信アンテナ、鉄塔、局舎の一部をFM長野と共用してきたとされています。

今回発表されたのはFM長野大鹿中継局の廃止であり、大鹿FM中継放送所全体やNHK-FM大鹿中継局の廃止を意味するものではありません。本稿執筆時点では、NHK-FM大鹿中継局の廃止は発表されておらず、85.0MHz、1Wの中継局として掲載されています。

FM長野の送信設備が廃止された後、共用してきたアンテナや局舎がどのような構成になるのかについては、公表されていません。

地上波中継局を廃止する意味

大鹿中継局の廃止理由について、FM長野が公式に示しているのは、設備の老朽化と放送体制の見直しです。維持費、聴取者数、人口動態などとの具体的な関係は公表されておらず、これらを直接の廃止理由として断定することはできません。

一方、1997年の開設当時と比べると、ラジオを取り巻く環境は大きく変わりました。現在はradikoやケーブルテレビを通じて、地上波の電波が届きにくい場所でも番組を聴くことができます。小規模な中継局を更新する代わりに、複数の聴取手段を組み合わせる考え方が現実的になったことは確かです。

ただし、インターネット配信やケーブルテレビは、通信回線、センター設備、宅内機器、商用電源などに依存します。電池で動くラジオだけで受信できる地上波放送とは、災害時の性質が異なります。

山間部の中継局を廃止する際には、平常時に代替手段が利用できるかどうかだけでなく、停電や通信障害が発生した際に地域住民がどのように情報を受け取るのかという視点も欠かせません。

約29年間、大鹿村へFM長野を届けた1W

FM長野大鹿中継局は、送信出力だけを見れば1Wという小さな中継局です。しかし、放送局の価値は出力の大小だけでは測れません。

高い山に囲まれ、美ヶ原や飯田からの電波が届きにくい大鹿村において、81.8MHzは長年にわたり、FM長野を安定して聴くための地域固有の周波数でした。標高約1,440メートルの送信地点、美ヶ原を狙った受信アンテナ、谷の方向へ電波を配分する3面の送信アンテナ。そこには、山岳県である長野県の地形に向き合ってきた放送技術の工夫が表れています。

2026年11月29日の放送プログラム終了後、大鹿村で81.8MHzに合わせても、FM長野の放送は聞こえなくなります。ただし、81.8MHzは岡谷・諏訪中継局と飯山・野沢中継局でも使用されているため、FM長野からこの周波数そのものがなくなるわけではありません。

約29年間にわたり大鹿村の暮らしへFM長野を届けてきた大鹿中継局。その廃止は一つの小規模中継局の終了であると同時に、山間地域の放送網を今後どのように維持していくのかを考える事例でもあります。

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