第1回ホクリク・デジコミーティング出張編開催のお知らせ

令和8年熊本地震で問われるJARLの災害広報〜「非常時に役立つアマチュア無線」を言葉で終わらせないために〜

アマチュア無線局 JF9OYU/ライセンスフリー無線局 いしかわJK946 です。いつもブログをお読みいただきまして、心より感謝申し上げます。

さて、このたびの令和8年熊本地震により亡くなられた方々に、心より哀悼の意を表します。ご遺族の皆さまに謹んでお悔やみ申し上げるとともに、被災されたすべての皆さまに心よりお見舞い申し上げます。現在も不安な時間を過ごしている方々、救助・医療・復旧・避難所運営などに尽力されている皆さまの安全と、一日も早い生活の再建を願っております。

本稿は、今回の発信に携わった個人や、ハムフェアの運営を支えるスタッフを責めるためのものではありません。災害が発生したとき、全国組織である一般社団法人日本アマチュア無線連盟(JARL)が、どのような情報を、どの順序で発信するべきなのか。そして「非常時に役立つアマチュア無線」を社会に伝えてきた組織として、どのような役割を果たすことが求められるのか。今後の改善につなげるための問題提起です。

本稿は2026年7月29日(水)までに確認できた公式発表や公開情報をもとにしています。被害状況やJARLの対応は、その後更新される可能性があります。

最大震度7の地震発生から約3時間後の投稿

2026年7月28日(火)16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1、深さ16キロメートルの地震が発生し、熊本県宇城市と氷川町で最大震度7を観測しました。気象庁は、この地震とそれ以降に発生した一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と命名しています。

地震発生直後の16時29分には有明・八代海に津波注意報が発表され、18時10分に解除されました。しかし、その後も強い地震活動は続き、19時03分には熊本県熊本地方を震源とする最大震度5弱の地震が発生しています。消防庁の7月29日14時現在の発表では死者や多数の負傷者が確認され、救助活動が続いていました。

そのような状況のなか、JARLが主催するアマチュア無線フェスティバル「ハムフェア2026」の公式Xアカウント「ハムフェア – HamFair(@HamfairJP)」は、同日19時32分に、報道関係者を対象としたプレス参加申し込みの受付開始を告知しました。ハムフェア公式サイトにも、19時31分の更新として「プレス申し込み公開」が掲載されています。

これは本震から約3時間5分後、19時03分に最大震度5弱を観測した地震からは、わずか約29分後の発信でした。被災地では安否確認や救助活動が続き、余震への不安が広がっていた時間帯です。そのため、SNS上では「このタイミングでハムフェアの告知を優先することは、被災者への配慮に欠けるのではないか」と疑問を呈する声が上がりました。

投稿自体は事前に準備されていたものかもしれません。予約投稿や、担当者があらかじめ決められたスケジュールに従って更新した可能性もあります。また、ハムフェアの準備を担っている人の多くがボランティアであり、災害対応の判断を個々の担当者だけに求めることには無理があります。

しかし、SNSを見ている側には、投稿が予約されていたのか、その場で公開されたのかは分かりません。受け手に見えるのは「大規模な地震が発生し、救助活動が続いているなかで、JARL主催イベントの宣伝が発信された」という事実です。広報では、発信者の意図だけでなく、社会からどのように受け止められるかも考える必要があります。

問題はハムフェアを告知したことではない

ハムフェアの開催準備や報道関係者の受け付けも、JARLにとって大切な業務です。災害が発生したからといって、すべての通常業務やイベント情報を長期間停止する必要はありません。今回考えるべきなのは、ハムフェアの告知を行ったことそのものではなく、災害発生時における情報発信の優先順位です。

少なくとも、先に被災者へのお見舞いと、熊本県支部を含む関係組織の状況確認を進めていることを発信し、そのうえで通常の案内を再開していれば、受け止められ方は大きく違ったはずです。あるいは、プレス申し込みの投稿をいったん延期し、災害に関する情報を固定表示するという方法もありました。

ハムフェア公式アカウントはイベント専用のアカウントですが、ハムフェア2026の主催者はJARLです。公式サイトにも「速報アナウンスはXの@HamfairJPを利用する」と明記されています。専門アカウントだから災害への配慮は不要ということにはなりません。一般の利用者から見れば、JARLの名を背負った公式情報源の一つです。

JARLは全国に地方本部と都道府県支部を置き、熊本県にも正式な県支部があります。被災地域にはJARL会員やアマチュア無線家が暮らし、今回の地震で被害を受けた方がいる可能性があります。全国組織だからこそ、被災した会員や地域に寄り添う発信が求められます。

確認できなかった非常通信に関する案内

本稿執筆時点でJARLの公式サイトなどを確認した範囲では、令和8年熊本地震に伴う非常通信体制の有無、熊本県支部や九州地方本部の状況、非常通信に使用している周波数、一般のアマチュア局に対する協力要請といった情報を確認できませんでした。

ここで注意したいのは、大規模な災害が発生したからといって、特定の周波数が自動的に全国一律で使用禁止になるわけではないという点です。実際に非常通信のネットワークが開設された場合に、使用する周波数、通信方式、対象地域、運用時間、キー局などを明示し、その周波数付近で通常交信を控えるよう協力を求めることが重要です。

JARLが公開している「アマチュア局の非常通信マニュアル」には、災害時には通信が輻輳する可能性があるため、ベース局が周波数の確保に努め、非常通信に参加していない局に送信を控えるよう協力を求める必要があると記されています。非常通信に参加していない局は電波を発射せず、できる限り傍受に徹することも示されています。

つまり、JARL自身のマニュアルに基づいて考えても、非常通信が実施されている場合には、全国のアマチュア無線家へ速やかに周知することが必要です。反対に、非常通信ネットが開設されていない場合でも、「現在、JARLとして非常通信体制の必要性を確認中です」「現時点でJARLが指定した非常通信周波数はありません」「被災地域への不要不急の呼び出しは控え、自治体や熊本県支部からの案内をお待ちください」と発信すれば、混乱や憶測を防ぐことができます。

何も発信されない状態では、各局が独自の判断で周波数を確保しようとしたり、根拠の確認できない情報を流したりするおそれがあります。善意から被災地へ呼びかけを繰り返すことが、結果として現地の通信を妨げる可能性もあります。非常時だからこそ、全国組織による統一された情報が必要です。

東日本大震災ではJARLも情報発信とワッチを実施

JARLは、災害時の対応経験を持っていない組織ではありません。東日本大震災では、地震発生後に情報収集を開始し、JARL中央局や地方局が主に7.030MHzのSSBで非常通信のワッチを行いました。さらに、当時のTwitterを通じて非常通信周波数の状況を発信し、被災地のアマチュア無線家への通信支援協力を呼びかけています。

もちろん、災害の規模や通信インフラの被害状況は毎回異なります。携帯電話やインターネットが機能している場合には、アマチュア無線による非常通信が必要とされないこともあります。無線機を持って被災地へ向かうことが、救助活動の妨げになる場合もあります。

だからこそ、JARLには「今回は非常通信を実施するのか」「実施しないのか」「現在確認中なのか」を整理して伝える役割があります。非常通信を行うことだけが災害対応ではありません。状況を確認し、不要な送信や無秩序な行動を抑え、正確な情報へ誘導することも重要な災害対応です。

JARLに提案したい七つの改善策

今回の出来事を一度のSNS運用上の失敗として片付けるのではなく、今後の災害に備えた仕組みづくりにつなげる必要があります。JARLに対して、次の七つを提案します。

第一に、大規模災害が発生した場合の「災害広報モード」を定めることです。最大震度6弱以上の地震や大津波警報など、一定の基準を満たした場合には予約投稿を一時停止し、通常のイベント告知よりも災害関連情報を優先する仕組みが必要です。

第二に、第一報の定型文をあらかじめ用意することです。「被災された皆さまにお見舞い申し上げます。現在、関係する地方本部・県支部の状況と非常通信体制の必要性を確認しています」といった短い内容であれば、詳細が判明していない段階でも発信できます。

第三に、非常通信体制の有無を必ず明示することです。開設する場合は使用周波数、モード、運用時間、キー局、対象地域、代替周波数を公表し、必要な範囲で通常交信を控えるよう要請します。開設しない場合や確認中の場合も、その旨を明確に伝えることが大切です。

第四に、JARL本部、九州地方本部、熊本県支部、ハムフェア実行委員会などの連絡系統をあらかじめ決めておくことです。災害が起きてから誰が判断し、誰が発信するのかを協議していては、初動が遅れてしまいます。

第五に、被災地のアマチュア無線家に無理な活動を求めないことです。JARLの非常通信マニュアルも、まず本人と家族の安全を確保することを重視しています。被災した会員に対して「無線家なのだから支援活動を行うべきだ」と受け取られる発信は避けなければなりません。

第六に、情報の正確性と個人情報の保護を徹底することです。安否情報や被害情報は、発信元、確認時刻、伝達経路を記録し、未確認情報を拡散しないことが重要です。被災者の氏名、住所、健康状態などを、不特定多数が受信できるアマチュア無線で不用意に伝えないための指針も必要です。

第七に、災害対応終了後の検証結果を公開することです。何ができ、何ができなかったのかを記録し、会員と共有することで、次の災害に備えることができます。批判を避けるために沈黙するのではなく、改善の過程を見せることが組織への信頼につながります。

求めたいのは謝罪だけではなく、次に備える仕組み

今回のハムフェア公式Xの投稿について、担当者個人を責めたり、投稿者を特定して非難したりすることは望ましくありません。予約投稿だった可能性もあり、災害発生時の停止基準や連絡体制が組織として整備されていなかったのであれば、それは個人ではなく仕組みの問題です。

また、問題となった投稿を削除するだけでも十分ではありません。必要なのは、被災者へのお見舞い、関係支部や会員の状況確認、非常通信体制の有無、周波数利用に関する注意事項を、JARLとして分かりやすく伝えることです。そして今後、同じ状況が起きたときに迷わず対応できる広報手順を整えることです。

アマチュア無線は、災害が起きれば必ず活躍できる万能の通信手段ではありません。訓練を受けていない人が無秩序に参加すれば、かえって通信を混乱させることもあります。一方で、普段から自治体や地域の防災組織と連携し、通信経路や役割を決め、訓練を積み重ねていれば、通信インフラが失われたときの貴重な手段になり得ます。

JARLは2026年に創立100周年を迎えました。その長い歴史のなかで培われてきた技術、組織、地域とのつながりを、非常時にも確実に生かせる形に整えることが求められています。

今回の問題提起は、JARLを攻撃するためのものではありません。「非常時に役立つアマチュア無線」という言葉を、広報上のキャッチフレーズで終わらせないための提言です。災害が発生したとき、被災者に寄り添い、会員へ的確な行動を示し、社会から信頼される組織であってほしい。その願いを込めて、JARLには今回の対応を振り返り、より実効性のある災害広報と非常通信体制を構築してもらいたいと思います。

参照先

 

本日も最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました。
SNSでの拡散にもご協力いただけますと大変励みになります

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です