エフエム石川の決算を読む〜営業赤字縮小と堅固な財務基盤を5期分から分析〜

石川県を放送対象地域とする県域FMラジオ局、株式会社エフエム石川。

1990年4月1日の開局以来、「HELLO FIVE」の愛称で石川県のFMラジオ放送を担ってきました。親局はJOHV-FM、金沢80.5MHz、出力1kW。羽咋、七尾、輪島、珠洲にも中継局を置いています。

普段ラジオを聴いているだけでは、放送局がどの程度の売上を上げ、どれほどの資産を持ち、利益を確保できているのかを知る機会はあまりありません。

しかし、エフエム石川は公式サイトで貸借対照表と損益計算書を含む決算公告を公開しています。そこには、一つの地方FM局が置かれている経営環境がかなり具体的に表れています。

今回は2026年4月27日時点で確認できる第32期から第36期まで、2021年3月期から2025年3月期までの5期分を読み解きます。

最初に結論を述べれば、エフエム石川は5期連続で営業損失を計上しているものの、その赤字幅は大幅に縮小しています。同時に、純資産は約7億8,000万円、自己資本比率は90%を超えており、営業赤字という一つの数字だけを見て経営状態を判断するのは適切ではありません。

むしろ注目したいのは、放送事業収入が緩やかに減少する一方で、その他事業収入が大きく伸びていることです。

エフエム石川の5年間の業績

まず、第32期から第36期までの主要な数字を整理します。

決算期売上高営業損益経常損益当期純損益純資産自己資本比率
第32期 2021年3月期約2億4,878万円△約1,980万円△約1,573万円△約1,834万円約8億1,830万円約88.8%
第33期 2022年3月期約2億5,609万円△約964万円△約131万円約100万円約8億2,627万円約88.5%
第34期 2023年3月期約2億5,618万円△約808万円△約612万円△約4,843万円約7億7,695万円約90.6%
第35期 2024年3月期約2億4,417万円△約139万円約752万円約687万円約7億8,316万円約92.0%
第36期 2025年3月期約2億5,874万円△約127万円約331万円約185万円約7億8,375万円約92.7%

第32期の売上高は2億4,878万155円、第36期は2億5,873万5,208円です。5年間で約4.0%増えており、少なくとも売上規模そのものが一貫して縮小しているわけではありません。

一方、営業損失は第32期の1,980万2,940円から、第36期には127万1,839円まで縮小しました。金額ベースでは約94%縮小したことになります。

この推移は、エフエム石川の経営を見るうえで非常に重要です。

営業赤字は続くが赤字幅は大幅に縮小

第32期から第36期までの5年間、営業損益だけを見ればすべて赤字です。

  • 第32期 △1,980万2,940円
  • 第33期 △963万6,226円
  • 第34期 △807万7,241円
  • 第35期 △139万3,872円
  • 第36期 △127万1,839円

しかし、この5年間を単純に「5期連続赤字」とだけ表現すると実態を十分に伝えられません。

売上高に対する営業損失の割合を計算すると、第32期は約8.0%でした。それが第33期には約3.8%、第34期には約3.2%、第35期には約0.6%、第36期には約0.5%まで縮小しています。

第35期と第36期については、営業段階ではわずかな赤字を残しているものの、かなり損益分岐点へ近づいていると見ることができます。

特に第36期は、売上総利益9,445万5,338円に対して販売費及び一般管理費が9,572万7,177円で、その差額として127万1,839円の営業損失となっています。

営業黒字化までの距離は、少なくとも決算書上では以前よりかなり小さくなっています。

放送事業収入は減少しその他事業収入は拡大

さらに興味深いのが売上高の内訳です。

第32期の放送事業収入は2億2,622万5,810円、その他事業収入は2,255万4,345円でした。

第36期になると、放送事業収入は2億1,667万8,307円、その他事業収入は4,205万6,901円となっています。

5年間で比較すると、放送事業収入は約4.2%減少した一方、その他事業収入は約86.5%増加しました。

売上高に占めるその他事業収入の割合も、第32期の約9.1%から第36期には約16.3%へ上昇しています。

これは非常に重要な変化です。

ただし、決算公告には「その他事業収入」の詳細な内訳が記載されていません。そのため、イベント、番組制作、タイアップ、デジタル事業などのうち何がどれだけ増えたのかを決算公告だけから断定することはできません。

確認できる事実は「放送事業収入以外の収入が5年間で大きく増加している」というところまでです。

地方ラジオ局の経営を考えるうえでは、従来型の放送広告だけではなく、放送局が持つ制作力、企画力、地域企業との接点、イベント運営、デジタルメディアなどを収益に結びつけられるかが重要になっていることを、この数字からも感じます。

第34期の約4,843万円の純損失をどう見るか

5年間の決算の中で最も目立つ数字が、第34期の当期純損失4,842万7,840円です。

売上高は2億5,618万246円で、第33期の2億5,609万2,847円とほぼ同じでした。それにもかかわらず、最終損益は大幅な赤字となりました。

理由の一つは明確です。

第34期には「本社移転費用」として4,172万2,807円の特別損失が計上されています。

つまり、第34期の大幅な最終赤字を通常の放送事業の収益悪化だけで説明するのは適切ではありません。

本社・演奏所移転に伴う一時的な費用の影響が非常に大きかった期です。

なお、第33期にも本社移転費用87万6,000円が計上されているため、移転関連の費用は少なくとも2期にわたって決算に現れています。

放送設備の耐用年数も変更された

第34期の個別注記表には、もう一つ興味深い記載があります。

演奏所移転に伴って設備を全面更新したことを契機に、放送業用設備の耐用年数を従来の6年から15年へ変更しました。放送用アンテナについても10年から20年へ変更しています。

会社側は、設備更新を機に経済的使用可能予測を実態に即して見直したと説明しています。

この変更によって、第34期の減価償却費は従来の方法と比較して1,116万8,000円減少しました。それに伴い、営業損失、経常損失、税引前当期純損失も同額減少しています。

ここは決算を読むうえで注意したい部分です。

第34期の営業損失は807万7,241円でしたが、耐用年数変更による減価償却費の減少効果がなければ、単純計算では約1,925万円の営業損失になっていたことになります。

もちろん、耐用年数の変更自体が問題という意味ではありません。新しく導入した放送設備を実際にどれだけ長期間使用できるのかを見直した結果として行われた会計上の見積り変更です。

決算数字を年度間で比較する際には、このような会計方針や見積りの変化も確認する必要があります。

第35期から経常黒字へ

第34期の大きな純損失の後、第35期は状況が改善します。

営業損失は139万3,872円まで縮小し、営業外収益891万8,149円を計上したことで、経常利益752万4,277円、当期純利益687万1,550円となりました。

第36期も営業損失は127万1,839円でしたが、受取利息及び配当金429万762円など、合計458万6,252円の営業外収益があり、経常利益331万4,413円を確保しています。

この構造を見ると、エフエム石川は本業の営業段階ではわずかな赤字が残っている一方、保有資産などから生じる営業外収益を含めれば黒字を確保できる状態になっています。

第36期にはさらに、特別利益として補助金収入903万5,000円、特別損失として災害損失991万7,450円が計上されています。決算公告には災害損失の詳細な内訳までは記載されていないため、その内容については断定できません。

最終的な当期純利益は184万5,463円でした。

92.7%の自己資本比率が示す財務基盤

損益計算書だけを見ると営業赤字が目につきますが、貸借対照表を見ると印象はかなり変わります。

第36期末の資産合計は8億4,529万2,872円。これに対して負債合計は6,154万5,122円、純資産は7億8,374万7,750円です。

純資産を総資産で割った比率は約92.7%になります。

  • 第32期 約88.8%
  • 第33期 約88.5%
  • 第34期 約90.6%
  • 第35期 約92.0%
  • 第36期 約92.7%

5年間を通して極めて高い水準を維持し、第34期以降はさらに上昇しています。

少なくとも貸借対照表を見る限り、営業赤字が続いていることと、財務基盤が脆弱であることは同じ意味ではありません。

現金預金と投資有価証券で約6億5,100万円

第36期の資産内容をさらに見ると、現金預金が3億2,624万5,943円、投資有価証券が3億2,493万8,596円あります。両者を合計すると約6億5,118万円です。

総資産約8億4,529万円の約77%に相当します。

売上高が約2億5,874万円ですから、現金預金だけでも年間売上高を上回る規模です。

一方で、資産構成は5年間で大きく変化しています。

第33期末には現金預金が約7億1,746万円、投資有価証券が約3,203万円でした。ところが第34期末には、現金預金が約2億8,837万円へ減少する一方、投資有価証券は約3億2,991万円へ増加しました。

現預金が大きく減ったことだけを見れば不安に感じるかもしれませんが、同時に投資有価証券が大幅に増えています。

決算公告だけでは、その資産組み替えがどのような取引によって行われたのかまでは確認できません。そのため理由を推測することは避けるべきですが、「現金が単純に失われた」と見るのは適切ではありません。

貸借対照表は資産全体の構成を見て判断する必要があります。

利益剰余金は依然としてマイナス

財務基盤が厚い一方、注意して見たい数字もあります。

第36期の利益剰余金はマイナス2,399万545円です。

推移を見ると状況がよく分かります。

  • 第32期 約1,472万円
  • 第33期 約1,572万円
  • 第34期 △約3,271万円
  • 第35期 △約2,584万円
  • 第36期 △約2,399万円

第34期に4,842万7,840円の当期純損失を計上したことで利益剰余金がマイナスへ転じ、その後、第35期と第36期の純利益によって徐々に改善しています。

ただし、資本剰余金が7億2,000万円あるため、純資産全体としては約7億8,375万円あります。

したがって、「利益剰余金がマイナスだから財務が危険」という読み方も適切ではありません。

今後、営業黒字と最終黒字を継続的に確保できれば、利益剰余金も次第に回復していくことになります。

ラジオ広告市場そのものも変化している

エフエム石川だけを見ていても、地方FM局が置かれている環境の全体像は分かりません。

電通が2026年3月5日に発表した「2025年 日本の広告費」によると、2025年の日本全体の広告費は8兆623億円となり、インターネット広告費は4兆459億円まで拡大しました。総広告費に占めるインターネット広告の割合は50.2%となり、初めて半数を超えています。

一方、ラジオ広告費は1,153億円で前年比99.2%でした。電通は、デジタルオーディオ広告が増加した一方、地上波ラジオの広告市場は前年を下回ったとしています。

興味深いのは「ラジオデジタル」です。

ラジオ放送事業者などが主体となるデジタル広告費は38億円で前年比111.8%。Podcastをはじめとする音声メディアやデジタルオーディオ広告への関心が高まっています。

もちろん、全国広告市場の傾向をそのままエフエム石川の経営に当てはめることはできません。

それでも、放送事業収入が5年間で緩やかに減る一方、その他事業収入が増えているというエフエム石川の決算は、ラジオ局の収益源そのものが多様化している時代背景と重ねて見る価値があります。

大都市圏FM局との売上比較だけでは見えないもの

地方FM局の経営を考える際、大都市圏のFM局と単純に売上高を比較したくなります。

しかし、東京都、大阪府、神奈川県など巨大な広告市場を持つ地域の放送局と、石川県を放送対象地域とするエフエム石川では、市場規模も人口も広告主数も異なります。

売上高が何倍違うという比較だけでは、経営の優劣を判断できません。

地方局を見る場合は、

  • 売上規模を維持できているか
  • 本業の採算が改善しているか
  • 十分な自己資本を持っているか
  • 短期的な資金繰りに余裕があるか
  • 放送広告以外の収益源を育てられているか

といった複数の視点で見る方が実態を把握しやすいでしょう。

その観点では、エフエム石川には「営業黒字化」という明確な課題がある一方、財務面には相当な余力があることが分かります。

決算公告だけでは分からないこともある

ここまで数字を詳しく見てきましたが、決算公告だけで放送局の経営をすべて評価できるわけではありません。

例えば、

  • 番組別の収益
  • スポンサー数
  • スポットCMとタイムCMの比率
  • 広告単価
  • 聴取率や聴取者数
  • radikoによる聴取状況
  • イベント事業の収益
  • デジタル事業の収益
  • 従業員数と人件費の詳細
  • 設備投資計画
  • キャッシュフロー

などは、今回確認した決算公告からは分かりません。

特に「その他事業収入」が具体的に何によって増えているのかは、今後の経営を考えるうえで知りたい部分です。

数字から読み取れる事実と、そこから考えられる可能性は分けて考える必要があります。

エフエム石川の決算から見える現在地

第32期から第36期までの5年間を通して見ると、エフエム石川の経営には二つの大きな特徴があります。

一つは、本業の営業赤字が続いていること。

もう一つは、その赤字が急速に縮小する一方、非常に厚い自己資本を維持していることです。

第32期に約1,980万円あった営業損失は、第36期には約127万円まで縮小しました。自己資本比率は約92.7%。現金預金と投資有価証券を合わせると約6億5,100万円あります。

さらに、放送事業収入は5年間で約4%減少したものの、その他事業収入は約86%増加しました。

この5年間を数字だけで表現するなら、「営業赤字が続く放送局」というよりも、「厚い財務基盤を持ちながら本業の損益分岐点へ近づき、収益構造にも変化が見え始めている放送局」と捉える方が実態に近いように思います。

地域の放送局には、広告媒体としての役割だけでなく、ニュース、生活情報、音楽、地域文化、災害時の情報伝達など、地域社会を支えるメディアとしての役割があります。

その役割を維持しながら、どのように持続可能な収益構造を築いていくのか。

エフエム石川の今後を見る際には、売上高だけではなく、営業損益、放送事業収入とその他事業収入の比率、そして利益剰余金の回復という3点に注目したいと思います。

参照

  • 株式会社エフエム石川「決算公告」
  • 株式会社エフエム石川「第32期決算公告」
  • 株式会社エフエム石川「第33期決算公告」
  • 株式会社エフエム石川「第34期決算公告」
  • 株式会社エフエム石川「第35期決算公告」
  • 株式会社エフエム石川「第36期決算公告」
  • 株式会社エフエム石川「会社概要」
  • 株式会社電通「2025年 日本の広告費」
  • 株式会社電通「2025年 日本の広告費 インターネット」

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